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便利屋修行1年生 最終話 最大の秘密 連載恋愛小説

以前、隠しごとがどうとか責められたことがあったが、沢口も負けず劣らずヘビーな秘密を抱えていた。
「あれ。知らなかったっけ」
まどかは綾の反応に驚いている。

「あの人、けっこう若いんだよ?ナゾのおっちゃんキャラやってるけど、5歳差だったかな」
全然似ていない。いや、言われてみれば、雰囲気が似ているような気もしてきた。所長が沢口に対してだけ下の名前で呼んでいるのも、それで納得がいく。

「仲いいんですかね?同じ仕事やってるくらいだし」
「んー、どうだろ。異母兄弟らしいし、いろいろあるんじゃない?」
いったん気になったら、聞かずにいられない性分だ。
腰を浮かせかけた綾は、まどかに制される。

「苦労してきた子は、なんかそういう空気持ってる。大人びて達観してるっていうか」
彼女も気ままにふるまっているようで、ときおり陰を感じる。
それで、どこか通じるところがあるのかもしれない。
「なにがあっても、安全地帯は手放さないほうがいいよ?私の経験則」
軽い気持ちで踏み込むべきではないと、立ち止まって考えるきっかけになった。

***

綾が兄の愛人だと、沢口は一時期本気で疑っていたらしい。
「弟だと知ってて、知らないふりしてる。食えない女だって」
家族のこととなると冷静でいられなくなって、判断力が狂う。
彼も同じなんだなと、いとおしくなる。

「あの人訳アリ女に弱いし。自分の女の教育係を俺にさせるのかって、ムカついて」
抗っても抗っても興味が抑えられないから、いっそのこと略奪しようと思ったと。
「それは…あてつけっていうか、恋愛じゃない気が…」

所長への反発が思ったより根深そうなので、綾は一気に心もとなくなる。
確かだと信じていたものが揺らぐのはこういうことかと、まどかの忠告が頭に浮かぶ。

「どこが」
「だってその思い込みがなかったら、絶対私のこと見向きもしなかっただろうし」
真実のように思えてきて、自分で言いながら胸が苦しくなってきた。
沢口が苛立たしげに息を吐き、綾は肩を震わせる。

「話聞いてた?こっちの決意砕いて粉々にして、虜にさせたの綾だから」
今の今まで泣きそうになっていたはずなのに、笑い声がもれた。
「トリコって言うひと、初めて見た」
「うるさいわ」
迫力満点の不機嫌顔も、照れ隠しなんだと今ではわかる。

所長とはなにもないと、はっきりさせる。
「わかってるから。ごめん」
「本気であやまって」
「すいませんでした、綾さん。大変、申し訳、ございません」

つむじを見るのは初だなあと、綾は小さな感動に浸る。
「罰として、いっぱいさわって」
それは罰じゃないと、彼はやさしく笑った。

(おわり)

最後までおつきあいくださり、ありがとうございました
今後も精進いたします

*蜂谷まどか&秋葉覚のスピンオフ「便利屋花業」もございます
よかったら、のぞいてみてください


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