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小鳥カフェ トリコヤ 最終話 情報提供者 連載恋愛小説

旅慣れている創史そうしはウソみたいに身軽で、その日ふらりと帰ってきた。
ギターは3本必要だったから、事務所の人に預けてきたという。
柔らかな素材のセットアップをさりげなく着こなし玄関に現れたとき、かの子は飛びつきたい衝動に駆られた。
隣でニヤつく文乃ふみのがいたので、実行はしなかったけども。
そんなこんなで、一方的に責められるのはちがう気がしていた。

***

テーブルにつくと、クロワッサンにコーンスープ、ハムエッグ。
フルーツとヨーグルトも並んでいて、彩り豊か。
「坂之下ベーカリー行ってくれたんだ。ありがと」
バターの香る焼きたてをほおばっていると、すぐに機嫌が直った。
文乃からは「ごちそうさま笑」の返信があり、怒らせてはいないようだ。

いさかいはもう終わりなのかと、忠司はつまらなさそうにしている。
かの子はこの情報提供者から、貴重な内部情報をつかんでいた。
三國ゆりが長年片思いしていた創史に告白し、傷心脱退した事実。
彼女の想いは関係者に知れ渡っていたが、当の本人には寝耳に水だったらしい。
「ごめん。そういう目でみれない」と、バッサリ拒絶。

なんとかごまかしていれば、あのままバンドでしこたま稼げたのに…とはメンバーのひとりだった広尾忠司の見解だ。
「あいつ音楽バカだから、そういうとこ抜けてんのよ。かのちゃんの爪のあかをせんじて飲ませないと。男の言葉をうのみにせず、きっちり裏をとるもんね」
創史とゆり、ふたりの関係が気になっただけなのに、感心されてしまったのだった。

***

「文ちゃんを呼ぶのは、昨日じゃなくてもよかったかも。おわびに今晩お風呂…」
そこまで言うと、男ふたりがこちらを向いた。
「私が洗っとくね」
「おお…今、一瞬にしてエッロイ妄想を…恐るべき手腕」
俺も手のひらで転がされてみたいと、忠司はわけのわからないことを言っている。

「で、バラードだから切なげにお願いしたいのよ、かのちゃん」
「ハイ、エージェント通してくださいねー」
創史が忠司を腕でさえぎった。
「OKする気ゼロだろ、てめ」
その呼びかたをやめなさい、と創史は同じことを何度も言う。
「かのちゃんはかのちゃんだし~」
人が集まってきてすてきな家だなあと、ほっこり。

「てか、笑い声天使じゃね?」
「聞くな変態。耳栓しろ」
自分のことを棚に上げている人がいる。
「あのさー、ここの表札ふたつ名字あると、ややこしくね?統一しちゃえば?」
一拍置いてから、先を越すなと、忠司は創史に首を絞められている。
そのあと、わりとガチな絞め技に移行していて、今日も平和だなとかの子は思った。

(おわり)
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。















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