Re:逃走癖女神 ⒍人たらし発動 連載恋愛小説
小説を脚本形式に書き換えればいいだけか、という都の予測は甘すぎた。
まるで使えないとのことで、総監督やらなんちゃらチーフやらに取り囲まれ、ダメ出しのオンパレード。
ここまで何稿も修正させられるとは思わず、都は接待でダメ押しをしてきた園田朔久を呪った。
モノホンの脚本家さんに依頼したほうが、よほどスムーズだった気がしてならない。
「住吉プロデューサーに調整頼んでみます。ある程度、意見を集約してもらうように」
複数の人間にそれぞれちがうことを言われるもんだから、何がなんだかこんがらがってきたと、全部ぶちまける。
都の言い分をあまさず聞いた朔久は、交渉のパイプ役を買って出た。
その現実的な対応に荒れ狂っていた心が凪ぐのを感じ、都はコーヒーをすする。
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「こちらの意図をくんだ変更が即座に上がってくると、監督が絶賛でしたよ」
打てば響くと言われたんじゃあ、顔もにやけそうになるってもんだ。
声質なのか話す速度なのか、この声を聞いているだけで落ち着く。
「刹って、ゴリゴリの軍人ですよね」
「あ、うん。そこはリアルに描きたいって、みなさん言われてた」
まさか自分が終末SFファンタジーを手がけるとは、夢にも思わなかった。
キャラクターデザイン案やそのほかの緻密な設定をビジュアルで提示されると、がぜん実感がわいてくる。
作画や美術、特殊効果や編集。
いろんな人が関わって、ひとつの作品をわずか3カ月で世に送り出す。
夢のある、かつタフな業界だなと思う。
「実は、キャストで体験入隊を計画してます」
一般人が自衛官を体験できるなんて、初耳だ。
見学会の要素が濃いものの、3日間の合宿生活で鍛えられるらしい。
「吸収するだけ吸収して、フィードバックしますね」
語り口はソフトなのに、熱意がビシビシ伝わってくる。
これが重忠を始めとした関係者を魅了する、園田朔久の人たらしたるゆえんか。
▷次回、第7話「元ヤンとギャンブラー」の巻。
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