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Re:逃走癖女神 ⒍人たらし発動 連載恋愛小説

小説を脚本形式に書き換えればいいだけか、という都の予測は甘すぎた。
まるで使えないとのことで、総監督やらなんちゃらチーフやらに取り囲まれ、ダメ出しのオンパレード。

ここまで何稿も修正させられるとは思わず、都は接待でダメ押しをしてきた園田朔久さくのろった。
モノホンの脚本家さんに依頼したほうが、よほどスムーズだった気がしてならない。

「住吉プロデューサーに調整頼んでみます。ある程度、意見を集約してもらうように」
複数の人間にそれぞれちがうことを言われるもんだから、何がなんだかこんがらがってきたと、全部ぶちまける。

都の言い分をあまさず聞いた朔久は、交渉のパイプ役を買って出た。
その現実的な対応に荒れ狂っていた心がぐのを感じ、都はコーヒーをすする。

***

「こちらの意図いとをくんだ変更が即座に上がってくると、監督が絶賛でしたよ」
打てば響くと言われたんじゃあ、顔もにやけそうになるってもんだ。
声質なのか話す速度なのか、この声を聞いているだけで落ち着く。

せつって、ゴリゴリの軍人ですよね」
「あ、うん。そこはリアルに描きたいって、みなさん言われてた」
まさか自分が終末SFファンタジーを手がけるとは、夢にも思わなかった。
キャラクターデザイン案やそのほかの緻密ちみつな設定をビジュアルで提示されると、がぜん実感がわいてくる。

作画や美術、特殊効果や編集。
いろんな人が関わって、ひとつの作品をわずか3カ月で世に送り出す。
夢のある、かつタフな業界だなと思う。

「実は、キャストで体験入隊を計画してます」
一般人が自衛官を体験できるなんて、初耳だ。
見学会の要素が濃いものの、3日間の合宿生活で鍛えられるらしい。
「吸収するだけ吸収して、フィードバックしますね」
語り口はソフトなのに、熱意がビシビシ伝わってくる。
これが重忠を始めとした関係者を魅了する、園田朔久の人たらしたるゆえんか。

▷次回、第7話「元ヤンとギャンブラー」の巻。


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