小鳥カフェ トリコヤ ⒓嵐の前の静けさ 連載恋愛小説
スタッフの定期健診日。
換羽期で元気のないインコのようすを夏目祐に診てもらい、タンパク質強化サプリを受け取る。
入院するほどではなくて、ひと安心だ。
「もしかして、業界人?」
やぶから棒に言われて、しばし考える。
付き合いはじめた創史のことらしい。
「なんでわかったの?」
「なんかそんな匂いがした」
裏方の仕事とはいえ、オーラは隠せないものなのだろうか。
トリコヤは女性客が多いから目立っているだけかと、かの子はそれまで思っていた。
客観的にみると、姿勢がいいせいか目を引くし、華があるといえばそうかもしれない。
「あんなのと話合う?」
鳥好き同士、弾みまくりである。それ以外はさっぱりだけど。
痛い目を見ないように気をつけろと、元カレに忠告されてしまった。
***
究極のリラックス術を編みだしたと創史が言うので、披露してもらうことに。
テラスに置いたデッキチェアに体を預け、目を閉じてみせる。
「わかった。それで鳥たちのおしゃべりに耳を澄ます、だ」
手招きするので、近づいた。
「癒やしのかたまりをこうして膝にのせる。ちなみに、お腹を押すと歌いだす一点モノ」
ぬいぐるみ扱いに笑ってしまったが、かの子は自分の体重が気になり少し体をずらした。
「添い寝スタイルもいいな」
穏やかな心音を聞きながら、まったりする。
環境ではなく、この人本人からアルファ波が出ているのかも。
***
突然身を起こした創史が、スマホに何かを入力している。
「あ、仕事してるー。リラックスはどーしたんですかー」
いわく、昼寝やシャワーなど、気を抜いたときに光る言葉を思いつくとのこと。
「かの子さんなしじゃ、仕事できない体になったな」
それはウソだ。
詞を書く以外にも、スタジオミュージシャンとして食べていることをかの子は知っていた。
あれからしょっちゅう顔を合わせている、広尾忠司情報だ。
創史の仕事のスタイルはすでに確立されていて、他人の存在に左右されることはないはず。
「別れたらどうする?大変だねー」
ふとよぎった切なさを、軽口でごまかす。
顔をのぞき込んできた創史にかの子が体をこわばらせていると、彼は木製テーブルをコツコツとノックした。
「なに?今の」
「別れないから、どうもしない」
悪いことが起こらない西洋のおまじないだそうだ。
こういうことを、サラリとやってしまう人だった。
(つづく)
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