見出し画像

おべんと攻防 ⒓きのこパーティー 連載恋愛小説

職業柄、平日に休めるのは、なんだかトクした気分。
人込みが苦手な帆南にとっては、なおさらだ。
今日は、系列店の惣菜さんにヘルプに来てもらって、みんなで打ち上げ鍋パーティー。
フェス以来、工場直送の惣菜が減り、店内調理の割合がぐんと増えた。
競合との差別化を図るため、各店のカラーを出していこうという方針転換だ。

蓮田がセレクトしたのは、「きのこ村きのこパーク」というレジャー施設。原木栽培のしいたけ狩りをキャッキャいいながら満喫したあと、樹々のあいだにしつらえられた野外席へ。

実行委員長・久世が乾杯の音頭をとることになり、ついでに総括も求められる。
かしこまって謝意を述べたあと、
「おべんとって、中身同じでも、入れもの変えればごまかせるんじゃね?って発見しました。現場からは以上です」
とグラスを掲げる。
フェスを根底から覆していないかとか、たしかに一理あるとか、ざわついたままよくわからないテンションで、乾杯。

***

「なんでわざわざ、うすら寒いアウトドアなわけ」
とみどりはブーたれていたが、肉厚のしいたけステーキをバター醤油で食せば、ころりとゴキゲンに。
ガーリックマヨチーズのエリンギベーコンピザも、石窯から直接テーブルへ。

メインは、きのこたっぷり鶏だんご鍋。
食のプロが自分たちのために作るのだから、おいしくないわけがない。
しめじ、まいたけ、ひらたけ、えのき、なめこetc.と、秋のオールスター感謝祭。
スープをひとくち飲んで、
「ダシ―!」
と帆南とみどりはユニゾンした。

「え。ちょっとこれ、この世のものとは思えんうまさなんだが」
「うどんぶち込みたいです」
「ナイス。ほなみん」
ゆでうどん、卵とネギ、一味唐辛子、さらには追加のアルコール。
みどりは、それらを久世に発注する。

「あのー。たしか僕、いちばんの功労者なんすけど…」
「自分で言うか。いちばん下っ端も兼任だろ?」
恩義を感じていても態度は変えない、ブレないみどりであった。

***

施設内のコンビニまで、帆南は久世とふたりで買い出しに行くことに。
鼻先をかすめる樹々の香りや、風の音。ふかふかの落ち葉の感触で、足取りも軽やか。
帆南はこの機会にと、久世に相談してみた。
ブログで実は独身だとカミングアウトすべきか、このごろ悩んでいたのだ。

それは必要ないです、と彼はあっさり言う。
「戦略的ウソはアリでは?読者が不利益をこうむっているわけでもないし。…ま、例外はあるけど」
「僕もある人に近づくために重要事項伏せてるし、帆南さんのウソなんて、かわいいもんです」
説明を求めると、逆に質問された。

「下の名前?って真澄、だよね。それがなにか…」
「真ん中の文字を抜くと?」
上空でカラスがひと声鳴く。
帆南の脳内は、大混乱に陥った。

「…あの可憐でキュートなまみちゃんが、コレ?」
行儀も忘れ、指を差してしまった。
「だれですか、ソレ。妄想力たくましいな」
対する久世は、さわやかな笑みを浮かべている。

詐欺だ…ともらすと、同罪では?と返ってくる。
主婦相手に悶々もんもんとした数カ月を、返してほしいそうだ。
スーパーの顧客は、圧倒的に女性が多い。
マーケティングツールとして、まみを名乗っていたというのだ。
「あの女子っぽい口調は、いったい…」
「別人格演じてたら、楽しくなっちゃって」
そこは大いに共感できるけども。

***

帆南は、道の途中で立ち止まった。
さらなる衝撃の事実に気づいたのだ。
「久世くん。早々にゆうべの脳内データを消去していただきたく…」
「あー、なんでしたっけ?年下男子に振りまわされて、ってやつ?」
あろうことか、夕波はまみに恋愛相談をしていた。

「ちょっと抜けてるとこも、ツボ」
愉快そうなのが、帆南としては心外である。
「ちなみに、なんで本日、我々は禁酒なんでしょうか」
その旨、ラインで流されてきたのだ。
久世はなんのためらいもなく、
「ホテル行く流れですよね、これ」とのたまう。

「あ…そーなんですか」
「そうなんです」
ふと目を伏せた彼は、帆南の手をとり、ナチュラルに恋人つなぎにする。
あのこんにゃくメッセージは、彼なりの最上級の愛のことばだったのかと、時間差で帆南は気づいたのだった。

(つづく)
▷次回、第13話「禁断の社内恋愛」の巻。


この記事が参加している募集

私の作品紹介

恋愛小説が好き

最後までお読みくださり、ありがとうございました。 サポートしていただけたら、インプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。