小鳥カフェ トリコヤ ⒌野生の勘 連載恋愛小説
「男いたんだ」
コーヒーを注ぐ手もとが狂いそうになった。
不意を突かれて焦るあまり、元カレだとかの子は馬鹿正直に答えてしまう。
ふーん…と息を出し、創史は窓の外をながめている。
ものごとにあまり執着しないタイプなのかも。
彼にとっては、先日の件も気まぐれとか衝動とか、そういうたぐいのとるに足らないできごと。
本来の目的である声を録れて、気が済んだのかもしれない。
ほっとしたような何か物足りないような複雑な気持ちになり、そのこと自体にかの子は戸惑った。
***
ポラロイドコンテストでは、涼しい顔をして最優秀賞をかっさらっていった。
景品は、小鳥の日めくりカレンダーと無料ドリンク券半年分。
「おめでとうございます。カメラもできるなんて器用ですね」
「店長独り占め券とかないの」
変なところに空気が入って、せき込んでしまう。
目が笑っているから、趣味の悪い冗談らしい。
つかみどころがないとは、こういう人のことを言うのだろう。
創史が一歩近づいたので、かの子は反射で二歩下がる。
「さっきから、違和感あって」
何かを嗅ぎとった野生動物みたいに、宙を見つめている。
「かの子さん、声が出てない…?」
「な…んでもないです、フツーです。さっきむせたんで」
耳がいいどころの話じゃない。冷や汗が出た。
(つづく)
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