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便利屋修行1年生 ⒊期待の大型新人 連載恋愛小説

「綾ちゃんって、人との距離近いよな」
皆でまったりとコーヒーを飲んでいたら、秋葉がそう言った。
「ああ、それ思った。すごいしゃべりやすいし」
今日はじめて会った蜂谷はちやまどかは、気取りのない感じの女性だ。
どうして今まで会わなかったのか不思議に思っていたら、彼女は自分好みの仕事しかしないとすまし顔。

所長によると、女の人は入ってもすぐやめるか、まどかのように合理的なタイプかのいずれかに分かれるという。
「重宝してんじゃない?所長」
「おう。蜂谷より断然な」
「へいへい。あ…でも、女子に嫌われるかも」

***

生まれてこのかた、綾には女友達がいたためしがない。
中学のときはまるっと3年間不登校だったし、余計に女子との付き合いかたがわからなかった。

「男きょうだいとか、いる?」
まどかの鋭い指摘に、綾はコクコクうなずく。
「それだ。物理的距離が近いのは」
秋葉がなにかを思いついたように、身を乗り出す。

「学生時代とか、バッタバタと男子のしかばね作ってそうだよな」
剣道をしていたのでそれなりに、と答えると、まどかが手を叩いて笑った。
「いいキャラしてるわあ。あざといと天然の見分けがつかん連中、多いからねー」

***

新しい環境へのなじみ具合が尋常ではないと、ネタにされる。
「え…もしかして新人がコーヒー飲むのは、タブーですか」
「そんな職場ねー」
秋葉にいたっては、綾の一言一句に腹を抱えて笑う始末。

「さすが、所長が半年かけて口説き落とした逸材」
それには語弊がある。
いきなりスカウトしても警戒されると考え、所長は綾のバイト先であるバーガーショップにせっせと通い、顔を覚えてもらおうとしたらしい。
ところが、シフトが流動的でなかなか会えなかったと。

しびれを切らして店長を買収し、スケジュールを把握した…というのは、確実に話を盛っている。遊び心があって、楽しい人だ。
「ウチに来ないかって言われて、どう思った?」
まどかも興味津々で目をきらきらさせている。
「えーと、ナンパかと…」
「まあ、間違いではない」
所長までノッてくるから、爆笑をさらってしまった。

(つづく)


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