ランカーマッチの結末
UFC305で行われたランカーマッチが分けた明暗。
ヘビー級・ライト級・フライ級、それぞれの階級でランクを持つファイターがぶつかり合い鎬を削った。
「光の差す次のステージへとの進む者」と「スポットライトから外れた者」に分けられるALL OR NOTHINGのランカーマッチ。
その結果と内容を振り返っていきたい。
ヘビー級
●(10)タイ・トゥイバサVS.○(12)ジャルジーニョ・ホーゼンストライク
※ホーゼンストライクの3R判定勝ち
2連勝を記録しランクを上げることに成功したホーゼンストライクに対して、5連敗を喫してしまったトゥイバサ。
5連勝を記録したかつての勢いは無くなり、組み技に対する苦手意識は打撃面にまで影響を及ぼしている印象があり、今回も特にいい所を見せることが出来ないまま判定負けを喫してしまった。
技術と気持ちの両面で戦っていくための強さを失ってしまっているトゥイバサは今後も厳しい展開が待っていそうだ。
そんなトゥイバサをクリアしたホーゼンストライクは、その先に待つ上位ランカーを打ち倒すことが出来るのかどうかという「超えるべき壁」への挑戦が再び始まることになる。
上位陣に敗北を喫しているホーゼンストライクがこの勢いに乗って新たな流れを作っていくことが出来るのか、今後のマッチメイクによってはヘビー級の勢力図に変化が生じることになるだろう。
ライト級
●(5)マテウス・ガムロットVS.○(11)ダン・フッカー
※フッカーの3R判定勝利
今回金星を挙げたフッカーは5位のガムロットとの激闘を制して一気にランクをあげてライト級上位へと躍り出た。
敗れたガムロットはストライキングでもグラップリングでも勝ち切るだけの力強さが感じられない一戦となっていて、カウンターなどの有効打を放ちフッカーにダメージを与えてはいたが、フッカーの前進を止められるほど深いダメージを与えることは出来ておらず、次第にガムロットの方が飲まれていく展開となった。
加えて厳しいと感じたのは、スクランブルの強さやテイクダウン後のコントロールでしっかりとしたアドバンテージを握れていなかったことだ。
テイクダウンを取ることは出来るが、圧倒するだけのコントロールと攻撃は行えず、その上逃してしまうと逆に自分の方がスタミナがキツくなってしまい、自身の強みを武器として活かせなくなっているように感じた。
それが結果的に勝ち切る力強さを失わせることにも繋がっていると感じられる試合内容になっていたと思う。
5位というランクからさらに上へと駒を進めていくに相応しいだけの実力があるのかという疑いを晴らすことが出来なかったガムロットは、ここから力強さを取り戻し、説得力のある証明を行なっていかなければならない。
その点では勝者のフッカーも同様だろうと思う。
5位より上に位置するファイターとの戦いを制し、ベルトへの挑戦権を得るに相応しい実力を持っていることを証明しなければならないという、さらに難易度の高いミッションを達成する必要がある。
今回一番のランキング変動を生んだこの一戦が今後のライト級にどういった変化をもたらしていくのか、両者の次戦は大きな意味を持った一戦となってくるだろう。
フライ級
○(4)カイ・カラ・フランスVS.●(7)スティーブ・エルセグ
※カイ・カラ・フランスの1R TKO勝利
連敗脱出or連敗といった結果をもたらすことになる両者復帰戦となるこの試合は、リスクとリターンが大きくプレッシャーのある一戦となっていたのではないかと思う。
カラ・フランスが喫した直近の2敗は、どちらも自身よりも上のランクに位置するファイターとの戦いで付いたもので、モレノとアルバジという王者クラスに敗戦してはいるもののどちらも内容は互角以上と言えるものであり、王座への可能性を感じさせる戦い振りを見せていた。
一方のエルセグはUFCデビューから優れたストライキングとグラップリング技術を活かして連勝を重ね、その後タイトルマッチ候補のコンディション不良などから突如タイトルマッチに抜擢されるという異色のキャリアを築いた新鋭ファイターである。
パントーハとのタイトルマッチでは、善戦した部分もあるが、最終的には技術と経験の差が大きく出た試合となった。
そこで敗戦したエルセグと、同じく王者クラスのファイターから弾かれたカラ・フランスが戦うとなると、その一戦に再び王者やトップランカーに挑戦していく資格の有無が問われるような意味合いが生じることになる。
そういった非常に価値のある切符を賭けた一戦でもあった今回のフライ級のランカーマッチの結末は衝撃的なものだった。
先に距離を支配したのはエルセグの方で、カラ・フランスは打撃を届かせることが出来ずエルセグのペースに乗せられるような形で試合が進んでいく流れとなったが、ここでエルセグはカラ・フランスの打撃に慣れてしまい、ある程度見えている感触を掴んでしまった。
そしてヒットアンドアウェイで上手く翻弄し、リードを得ようと手堅い戦法を選択したことが結果的に敗戦へと繋がる原因を作ることになってしまう。
カラ・フランスはワンステップの踏み込みだけではなく、歩くように前進しながらオーバーハンド気味の打撃を振っていくことも得意としているので、間合いが変化する攻撃のバリエーションを持っており、エルセグは距離を掴んだと思っていたが故にその変化に対応出来ず、結果的にビッグショットをモロにもらってしまった。
これが勝負を決める攻撃となり、追撃を仕掛けたカラ・フランスをレフェリーが止めたことで試合は決着した。
こうして今後の命運を賭けたフライ級のランカーマッチは幕を閉じることになる。
勢いそのままにタイトルマッチも経験したエルセグはこれで2連敗となり、カラ・フランスは連敗を脱出しタイトル戦線へと再び上昇していくことが出来た。
これでカラ・フランスはもう一度トップファイターに挑戦していくことが出来るようになったことに加え、王座という悲願を射程圏内に収めることに成功した。
そのため次戦の相手によってはフライ級が大きく変動していくことになる可能性があるので、カイ・カラ・フランスの次戦にはイヤでも注目が向けられることになるだろう。
本物の“カイ”は俺だ
また、カラ・フランスは試合後のマイクで“カイ”という自身の名前にも含まれる同一のワードを持ち出して、UFC参戦が明らかになっている日本の朝倉海に対戦要求をしている。
朝倉海のUFCデビューについては様々な情報が出ているが、果たして初戦はどのファイターとぶつかることになるのか。
ただ、朝倉海はサイズと身体能力、そして魅力的なパワーを併せ持っているファイターであり、ボクシング技術にも優れたRIZINの元バンタム級王者でもあるので、そのポテンシャルを考えると個人的にはフライよりもバンタムで戦う姿を見てみたいと思ってしまう。
現在のハイレベルな選手が並ぶバンタム級で日本人ファイターがタイトルマッチを行うとなれば、それこそ歴史的な出来事となる。
朝倉海本人も現バンタム級王者のショーン・オマリーと対戦してみたいと語っていることから、どこかではバンタムという階級を視野に入れているのではないかと思う。
身体能力とパワーは海外の選手と十分勝負できるだけのものを持っているので、今後のUFCでの歩みがどうなっていくのかという点については、日本の格闘技ファンや朝倉海のファンの多くが注目している所であるだろう。
これだけの知名度を持った日本人ファイターがUFCに挑戦したということは無かったのではないかと思うので、必然的に日本のUFC市場も拡大していくことになるのではないかと思う。
そういったビジネス面でも朝倉海の存在、そして今後の活躍というのは非常に注目されるものになってくると思うので、当然デビューの結果や内容が持つ意味はとても重いものになってくる。
なので、これまでの日本人選手のデビュー戦よりも得られるものや失うものは比べものにならないくらい大きいものとなっているはずだ。
日本人ファイターをブランド化するスター選手としての道が開かれるのか、それとも閉ざされるのか、そんな大一番を迎える時は刻一刻と迫ってきている。
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