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ことばあそびから戦争を考える ~絶体絶命~

 今日の読売新聞「編集手帳」にことばあそびが紹介されていた。「絶体絶命」。どう遊ぶのかと思ったら、分解して「糸(いと)」「色(しき)」「体(からだ)」、「糸(いと)」「色(しき)」「命(いのち)」と読むのだそうだ。「いとしきからだ、いとしきいのち」。うまいことを考えるものだ。

ただ聞くだけだったJアラート

 最近は、世界に目を転じても暗い話題が多い。戦争、ミサイル投下…。いずれも人の命を奪う(奪いかねない)ものだ。先日の朝には、ミサイルが日本の上空を通過した。朝の支度をしながら、Jアラートを聞いた人も多かったのではないか。通常のニュースは打ち切られ、Jアラートが流され続けた。第一報は北海道、青森地域だったが、東京島しょにもアラートが発令された。

 筆者が毎朝聞いているラジオからもずっと「建物の中、または地下に避難してください」と流れ続けていた(って、どこへ逃げろと?)。会社に行くと「避難しろっていわれても、どこへ逃げればいいかわからない」「地下なんて近くにないし!」「迎撃ミサイル何かに予算使うより避難場所どうするか考えてほしいよね!」といった声が聞こえてきて、突っ込みどころはみな同じだな、と思わず心のなかで苦笑してしまった。

果たしてどこへ逃げる?

 今回は笑って済ませられたものの、実際にミサイルが落下したとして、果たしてどうすべきなのだろうか。Jアラートで流れたように、建物の中にいれば身の安全を確保できるのだろうか。

 地下と言われたところで、近くにない場合のほうがはるかに多い。ビジネス街ならいざ知らず、住宅街を歩いていた場合はどうすればよいのか?などと考え始めると、どれもこれも万全どころか、ミサイルが落下するであろう2分足らずの間に取るべき行動さえあいまいな状態だ。

 いかに日本が平和で、これといった対策もなく、備えもなく、ついでにいうと私たち一人ひとりの危機意識も低いまま(ほとんどの人がそうですよね?)に過ごしているかと思い知らされる。

本当にないの?地下シェルター

 さらに驚いたのが、その後調べてみて、全国には地下シェルターをいくつか備えているということだ(あったんだ!)。しかし、それらがどこにあって、いつどのように解放され、どこから入るのか、どのような備えがあり、何人収容でき、何日分の食料などが備蓄されているかなど全く知らない。果たしてどれだけの施設があるのだろうか。インターネットで改めて検索してみると、2022年4月21日の読売新聞オンラインに地下シェルターに関する記事が上がっていた。

 それによると、「日本でも、外国からの武力攻撃を念頭に、自治体による地下駅舎の避難施設指定が進む。昨年3月まではゼロだったが、この1年で300を超えるまでになった。ただ、地下鉄網の整備された東京では1件もなく」…えっ!東京に1件もない!?人口が多く、特に昼間は都心に人が集中するという東京に1件もないのか?

日本にあった!地下シェルター

 どうやらシェルターについては「2004年施行の国民保護法は、ミサイル着弾などの有事に備え、都道府県知事と政令市長に避難施設の指定を義務付け」られたのだそうで、「大阪府と大阪市、堺市は今月(4月)7日、大阪メトロの全133駅中108の地下駅舎を避難施設に指定したと発表」したとある。それでも「2020年4月時点で指定された約9万4000施設中、地下施設は計1127だったが、地下駅舎はゼロだった]」というのだから、大阪府と大阪市の発表は大幅に前進したといえるのかもしれない。

 東京都は?というと、都営地下鉄で100か所ほど検討したそうだが「大勢の避難者に駅員だけで対応できないことや負傷者の手当て、避難が長引いた場合の食糧配布が難しい」という理由から、指定に至っていないそうである。ただでさえ人口が多く、特に昼間の人口密度が高い東京で、ゼロというのはいかがなものか。

あっても深さが全然足りない!でも重要な地下シェルター

 しかも、地下シェルターがあったとしても深さが十分ではないというのだ。なんでもウクライナの首都キーウ(キエフ)にあるアルセナリナーヤ駅は地下約105メートルに対して、日本で最も深いとされる都営地下鉄大江戸線「六本木駅」で地下42メートル。先の大阪では、最も深い駅舎で長堀鶴見緑地線の「大阪ビジネスパーク駅」でやっと地下約32メートルというのだから、ないよりまし、といったところだ。

 国民保護行政に詳しい防衛大学校の宮坂直史教授(危機管理)が読売新聞からの取材に「遠方に逃げるには限度がある島国の日本では、地下を避難先とすることは有効だ。自治体は民間事業者の協力を得られるよう努力し、地下への入り口に設けているシャッターをより強固にするといった整備を同時に進める必要がある」と話している。しかし、こうした対策がとられた駅が果たしてあるのだろうか。

ないよりまし?な備えと憂いと

 ちなみに今年4月の時点で東京に1件もなかった地下シェルターは、9月30日に「ミサイル飛来などを想定し、都民1400万人分の一時的な避難施設の確保を公表したばかり」で「地下駅舎:24施設、公共施設:754施設確保」したそうだ(Merkmal 2022年10月5日付記事)。今年8月の発表では東京都の人口が14,036,936人というから、数の上ではギリギリ足りるかどうかといったところにはなるが、周辺のベッドタウンから通勤してくる人達を合わせるとどうなのだろうか。

 コロナ禍で在宅ワークが一時進んだとはいえ、最近では在宅ワークを解消したり、出勤日を増やしたりする企業も増加傾向にあるというから、統計上は足りていたとしても、現実問題に即していないような気がする。加えて、我々一般人の多くが、地震の時ほどにはこういった情報を持っていないことも問題だろう。

いとしきからだと、いとしきいのちと

 戦争は、奪わなくてもいい「いとしきからだ」と「いとしきいのち」、この両方を無残にも奪うもの。ましてや打ち上げ花火かのようにぼんぼこ上がるミサイルには閉口する。漁師の方など、たまったものではないだろう。自然災害は抗えないものがあるが、人間同士であれば、対話でなんとかできるはず。そして近年はそういう状態をなんとか保ってきたはず。

 不穏な空気が流れるこんなときだからこそ、「いとしきからだ」と「いとしきいのち」を見つめなおし、日本はもちろんのこと、世界全体が「絶体絶命」な状態に陥らないことを祈るばかりだ。 


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