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【和歌山】自転車に乗ってお醤油発祥の地湯浅町をめぐる、の話

和歌山県へ出張の予定が入った。
午後の会議に出席するというもの。
場所は湯浅町。
京都からけっこう遠いんでない?白浜とか、熊野とか。確か、車で結構かかったような。
和歌山の観光地についてよく知らない私がとっさに思い付いたのはそんなこと。
今回は荷物も多くないし、一人だし、気楽に列車の旅を選択してよく知らない街湯浅町へ行ってみた。


特急くろしお号でGO

京都から湯浅町まで行くには新大阪駅で特急くろしおに乗り換える必要がある。
京都から新大阪まで新快速で24分なのだけれど、急いでいたので新幹線に乗車。15分で新大阪に着くし、自由席でも大体座れるし快適。
このくろしお号、パンダ柄の可愛い列車もあるのだけれど時間の都合で今回は普通の列車に乗る。
ホームで列車を待っていると白い車体が滑り込んできてテンションが上がる。
車窓の海を楽しみにしていたのだけれど、目的地まではほとんど街の景色。
きっと、湯浅町より先で海の景色が見えるんだろう。

列車が到着した駅は予想に反して無人駅。
ICOCAで入場したので一瞬あせったけれど、ちゃんと機械が設置されていたので無事改札を通過。
駅の設備は無人の改札と切符の販売機のみ。当たり前だけれど、駅員さんは基本的にいない。
お隣は市の観光案内所。ここで、地図をいただき外へ出る。
歩いている人はあまり見ない。
この町は車社会なんだろうな。

新大阪駅に滑り込んでくる特急くろしお

ここはお城?〇ブホテル?丘の上のホテル湯浅城

予定を終え、今夜の宿泊場所へ向かう。
公共交通機関で旅するときはいつもネットで駅前のホテルを予約することにしている。
行き当たりばったりで旅するときには駅前のホテルは便利だ。
今回はネット検索で駅前のホテルが見つからなかったので、近そうなホテルをチョイス。
歩いていくことは出来なさそうなので、同じ会議に出ていた地元の人に送っていただく。
ホテルに近づいていくにつれ、その外観に目を奪われるお城の形をしたホテル。
天守閣が真ん中に建っており、それを取り囲むように客室が並ぶ。
温泉完備かつ日帰り入浴可なので地元の方たちの憩いの場所になっているようだ。
初めて訪れる人は戸惑う外観と、客室までの廊下に展開されるクラゲ博物館。
あまりの衝撃に友達たちに写真を送ったら、8割が「ラブホにいるん?」と返信してきた斬新な意匠。面白楽しいもの好きさんたちは行ってみるべきだね。

ちなみに、車じゃなかった私、チェックイン時に明日の迎えのタクシーをお願いすると「日曜日は、タクシーはお休みなんです」とのこと。まじっすか?どうしよう。歩いて帰るしかないか。とあきらめていたら、その夜遅くにフロントから電話があって、従業員さんがわざわざ自家用車で駅まで送ってくださった。
こういう人の温かさが一人旅では身に染みる。
めちゃくちゃ書いてるけど、ホテル湯浅城、温泉付き、めっちゃいいホテルです。
大事なことだから何度も書くけど、一回行ってみるべき。

中央に天守閣?
客室へと誘う青い照明
結構広くて清潔な和室

一人旅の強い味方、観光案内所

一人旅で初めて訪れた場所で、まずやることは観光案内所へ行く事。
いつもだいたい行き当たりばったりとはいえ、ざくっと何が或るかは知りたい。
ネットで情報収集もいいけれど、観光案内所には最新かつ地元おすすめの情報がある。
今回、私が見つけたのはレンタル自転車。ふつうのママチャリだと一日借りて300円、電動自転車は500円。(借りるために身分証明書が必要なので忘れずに)
受付の人に聞いてみると、湯浅町はアップダウンはあまりないとの事なので普通のママチャリを借りる。

レンタサイクル1日300円。
レトロなポストの前で1枚

めっちゃ旨い生しらす丼見つけた

颯爽とママチャリに乗った私が最初に向かったのは、観光案内所からすぐのところ、駅前にある食堂「かどや」さん。
TVや雑誌の取材に何度も登場している人気店だけあって開店前からすでに行列が出来ていた。その後もひっきりなしに他府県ナンバーの車がやってくる。
みなさんのお目当ては、湯浅で獲れたしらすに湯浅のお醤油を使った特性たれをかけていただく生しらす丼。
大学を出てから、長いあいだ修行してきたご主人が満を持してお客様に届ける、まさに湯浅の味凝縮版。
ご飯にたっぷりと乗せられた生しらすは鮮度が命なのでここでしか食べられない。お味噌汁とお漬物がついて1,150円。湯浅に来たら、絶対食べたい逸品だ。

開店前から行列ができる
ご主人「何食べる?」って注文待ち
湯浅で獲れた生しらす、湯浅醤油、絶品生しらす丼

調子に乗って隣町まで行ってみた 稲村の火の館

腹ごしらえをした私は考えた。
さて、どこに行こうか。。。
さっき、観光案内所でいただいた地図を広げると、隣町の広川村に観光施設があるようだ。
正しくは、津波防災教育センター。濱口梧陵記念館。
濱口梧陵は元ヤマサ醤油の社長さん。広川村に大きな津波が襲ってきた後で、」資材をなげうって村の復興に尽力したという篤志家。
彼の功績をたたえると共に津波の恐ろしさや避難などの知恵を教育する目的で建てられた施設との事。
濱口梧陵の邸宅があったところらしく、美しい庭や彼に関する資料が展示されている。
防災教育センターは近代的な建物で、中にはシアターやペッパー君と遊ぼうコーナーなどがあり、訪れる人を楽しませていた。
向かいには道の駅があって、ヤマサ醤油がたくさん並んでいる。

入口は豪商の邸宅風
道の駅。たくさん車が来ていた

豪商の邸宅と親切な街の人々 旧菅原家住宅

稲村の火の館で防災学習を終えた私は、湯浅町へと自転車を走らせる。
海が近いので潮風が心地よい。
湯浅町には、昔懐かしい香り漂う街並みが保存されている。
まず、最初に訪れたのはかつて「フジイチ」という屋号で呼ばれていた旧栖原家住宅。
お醤油の醸造施設であったこの建物は母屋の後ろに麹室や仕込み蔵などが配置され、今でも巨大な醤油桶やしょうゆ造りで栄えたころの貴重な資料が展示されている。
この日は、ちょうど湯浅町のイベント紫陽花祭りの準備中で奥庭には色とりどりの紫陽花の花が揺れていた。

入口。紫陽花が季節感を盛り上げる
展示されている醤油桶
醤油の大樽
紫陽花祭りの準備中

休日だというのに自宅から駆けつけてきてくださった旧栖原住宅の木下さんが、醤油発祥の地からどうやって関東地方に醤油が伝わっていったのかお話ししてくださった。
曰く、お醤油はもともとは金山寺みそを作る工程で出る樽に溜まった溜まりを独立した調味料へと改良を重ねて作り上げられたものなのだそう。
そして、この調味料は紀州の漁師たちにより関東地方へ伝えられたのだとか。
湯浅のお醤油は色が濃く関東風だと言われるのだが、本家は湯浅なのだそう。
そう言えば、千葉辺りには和歌山と同じ地名が多いのも紀州の漁師たちが移り住んだ証なのかもしれない。

木下さん、ありがとうございました。

華やかだったころの街のたたずまいが残る甚風呂

旧栖原家住宅を後にした私は木下さんに勧めていただいた甚風呂へと自転車を走らせた。
甚風呂は細い路地の先に位置する住居付き公衆浴場。
明治初期ごろ建設され、湯浅の人々に親しまれたのち、現在は博物館として公開されている。
入口ののれんをくぐると玄関があり、引き戸を開けると番台がある懐かしい造り。
脱衣所の先にはタイル張りの風呂桶が残されている。

入口の意匠がモダン
脱衣所。正式名称は戎湯。
タイル張り、やや深めの浴槽

浴場の裏は事務室や住宅になっていて、レトロな生活グッズが展示されている。
通り庭には浴場らしく焚場が残されていて珍しいお風呂屋さんのバックヤードを見ることが出来た。
こういうの、だんだんなくなっていくんだろうなと、ちょっと感傷に浸る。

当時使用されていたそろばんや大福帳
どこか懐かしい居間の風景
電話の後ろに釜場が見えている
湯札を購入

幻の一滴、老舗醤油蔵角長

次の目的地は、甚風呂のお姉さんに紹介してもらった老舗の醬油屋さん角長。角長は、1841年創業の湯浅町を代表するお醤油の蔵元。
お醤油造りに不可欠であり醤油の命ともいえる酵母は、蔵のはりや天井に宿る。
角長では、酵母を代々守り続けて、現在も創業当時の蔵を使用してお醤油を作っているのだそう。路地を挟んでショップや博物館が点在、博物館は無料で見学でき、醤油造りの行程が学べる。
湯浅のおみやげに、ショップで、限定販売の「濁り醤」を買った。とろりとした漆黒の濃い味のお醤油。何年もかけて、醬油造りの原点を探り、当時の製法で丹念に製造された逸品。
ショップの人に教えてもらった通り、冷ややっこにかけていただくとお醤油本来の味が引き立っておいしかった。

博物館入り口
醤油造りの行程を見ることが出来る
ギャラリー入り口
いい雰囲気のショップ

忘れてはならない金山寺みそ

湯浅へ来て、もう一つ忘れてはならないのは金山寺みそ。
金山寺みその由来は、750年ほど前に法燈国師が修行をしていた中国から持ち帰って和歌山県由良町の興国寺に伝えられたというのが有力な説。
自転車を押しながら細い路地をゆくと、金山寺みその文字。
一見しても店名がわからないけれど絶対老舗なんだろうなという風情のお店ののれんをくぐると、味噌のいい香りが店中に漂っていた。
生姜、茄子、瓜、麦などゴロゴロと具がたくさん入った調味料という感じ。あったかいごはんに乗せたら絶対美味しいやつ。
小さい容器に入った金山寺みそを一つ購入して自転車のかごに入れる。
ふと、時計を見ると、列車の時間までもう少し。
潮風に吹かれながらの自転車の旅もそろそろ終わりに近づいてきた。
駅まで戻ることにしよう。

看板の文字がいい感じ

レトロ駅舎で帰りの列車を待つ

駅で自転車を返却した後は、お隣にあるレトロな旧駅舎で出発までの時間つぶし。
おしゃれに改装された天井の高い建物の中には、街の資料が展示してあったり、おかまで焚き上げたお米を使ったおにぎりショップや、クラフトビール、カフェなどが運営されている。
自転車で走ったのでのどが渇いた私は、シマウマのラベルのクラフトビールを飲みながらゆっくりと旅行を反芻する。
レトロな街並み、美味しい生しらす丼、昔ながらの製法で作られたお醤油に金山寺みそ、そしてなにより、それを支え守っている優しい人たち。

民家の軒先につるされたフグ
壁面を美しく飾る醤油瓶たち
最後にビールで乾杯

あ、列車が来た。
今回の旅行も楽しかったなぁ~って、ホントは出張なんだけど。ついでに遊んですいません。
次に来る時は完全遊びで、旨い日本酒を探しに来よう。

セミの声が聞こえるホーム







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