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読書感想 福井晴敏 終戦のローレライ

フォローさせていただいている堀間善憲様のこちらの記事を拝読しまして、絶対に面白いに違いないと思い、中古本全4巻を購入しました。

 映画化もされた、原稿用紙2800枚に及ぶ超大作です。小説は長編になればなるほど、「この部分、いる…?」という箇所が出てくると思うのですが、この小説に限っては無駄だと思える描写が一つもなく、一文字も取りこぼすことなく真剣に読みました。

 ストーリーはwikipedia様にお任せしますけども。
かいつまんで言うと、終戦の夏を舞台に、ローレライという特殊装置を搭載した戦利潜水艦、伊507の搭乗員たちが国家の命運をかけた任務を遂行するため、命をかけて戦う架空戦記です。


 まず、すらすらと流れるように進む文章が非常に読みやすいです。そして、心理描写、情景描写ともに素晴らしいので、まるで自分もその場に居合わせているように物語に没頭出来ます。日常生活において、いわゆる非言語コミュニケーションにより伝わる相手の思考やその場の空気感が、文字を通してきちんと伝わります。それがすごいと思います。ドラマや漫画と違って文字だけで何から何まで説明しなければいけない小説で、薄っぺらいと感じさせず読者をその世界観に引っ張り込めるのは、作者の技量以外のなにものでもないと思ったりします。


 この小説で私が一番凄いと思ったのは、主要登場人物の全員が主人公なのではと思えるほど、個性のあるキャラクターがしっかりと描かれているところです。キャラクター達が抱える信条や、それを持つに至った背景、そうならざるを得なかった過去。その描かれ方が素晴らしいと思います。


 物語の進行も、起伏に富む展開が続き、グイグイ引き込まれます。潜水艦同士の合戦、銃撃戦、ちょっとしたロマンス、さまざまな策略が交錯するなかの男達の人間ドラマ、なんでもありです。
そんななか、搭乗員達は死を目前に眺めながら自身の過去を振り返り、特攻さながらの任務を遂行する意味をそれぞれ見出そうとします。そして生死をわける運命を共有するうちに、はじめは敵対していた搭乗員同士に淡い仲間意識が芽生え始めます。そのような経験を通して、それぞれ確固たる意志を持って自身の道を進むようになる、そんな成長
(のようなもの。この言葉が適切とは思えないのですが、ほかに思い当たらない…)
が描かれています。

 以下は私が個人的に好きなキャラクター紹介なので、ネタバレを含みます。ご興味ある方のみお読みください。


第一位…やっぱり絹見艦長。自死した腹違いの弟の亡霊に苦しむ。常に冷静に局面を見据え、的確な指示を出す。仲間とあんまり打ち解けたくないから冷血漢を装う。作中、万策尽きたやん…!という状況下でも前代未聞の作戦を打ち出し窮地を何度も脱する。「やりようはあるさ」と、にやと笑ったりして先任将校(副艦長)を凍りつかせる。決して完全無欠のヒーローではないのですが、合戦場面はマジかっこいいです。「てっ!」(撃て)という台詞にしびれます。

第二位…田口掌砲長。殺気を孕んだ目と鉄拳制裁で部下を震え上がらせる。強面だけど、部下思いの優しい一面を隠し持っています。
南方の島で人肉食に手を出した経験があり、自身の深い傷となっている。そうせざるを得なかった心境がとてもリアルに描写されています。

第三位…フリッツ少尉
日本人の祖母を持つ、もとSS(ナチス親衛隊)という異色の経歴の持ち主。黄色い肌であるがゆえに妹パウラと共にナチスの人体実験の餌食となるも、「恐怖を克服するには自分が恐怖になるしかない」を信条に、SSに入団を果たす。妹を守るために悪魔に魂を売り渡したように思えるのですが、伊507で乗員と生死を共に戦ううちに少しずつ心を開いていき、自分の未来には思っていたものとはまた違う選択肢があることに気がつく。絹見艦長に言われた「日本ではそれを餓鬼の道と言うんだ」という台詞を、終盤には敵に向かって言い放ったりします。


 私はクールな男にめっぽう弱いのでこういう結果になりましたが、終戦のローレライにはまだ他にも魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。


 最後まで読んでいただきありがとうございました!






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