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読書感想 横光利一 機械


 引き続き横光利一特集です。笑

 横光利一の代表作です。これまたすごい作品だと思いました。

 まず文体が独特です。段落や句読点が極端に少なく、人によってはかなり読みづらいと感じる文章だと思います。

 あらすじとしては、ネームプレート製作所で働く「私」が、一緒に働く同僚の職人からスパイだと疑われたり、また疑ったりして、互いに疑心暗鬼になりながらついには殴り合いに発展し…、みたいな物語です。語り手の「私」の視点で物語が進むのですが、その心理描写がかなり緻密で冷淡で機械的なのです。とにかく圧倒されます。この独特の文体も、それを強調するための演出のひとつなのでしょうか。

 私がまず感じたことは、「私」は一種のサイコパスなのでは?ということです。というのも、ネームプレート製造所は劇薬を取り扱うために、長年その業務に当たっていると、皮膚や咽頭、脳組織が破壊され視力さえも奪われるのです。「薬品が労働力を根底から奪っていく」ことを理解しているのに、せっかくここまで辛抱したのだから、仕事の急所を覚えてから辞めようという考えがすでに正気の沙汰とは思えないと言いますか…。(当時はそんなもんだったんですかね??)

 また、「私」は同僚の軽部にスパイだと疑われ嫌がらせを受けるのですが、段々命まで狙われているのではないかと感じ始めます。それなのに、軽部に対する警戒心が滑稽に思えてきて、殺されるなら殺されてみようと考えるようになり、命の危険に晒されている事を忘れてしまうのです。

 さらに、手伝いに来た他の製造所の職人、屋敷もスパイだと思った軽部が彼に対して暴行を加えているのを目撃した「私」は、にやにやしながらそれを眺めたりするんですね。

 サイコパスの心理が機械的に書かれているのに、リアルに受け取れてしまうという、なんとも言えない不思議な文章です。

そして、衝撃のラストです!
ネタバレ厳禁でございます!
最後まで読むと、私はこの小説は広義に解釈するとホラー寄りのミステリーではないかと思いました。
いやいやいや、わかってないよ、という意見が乱立するであろう奥深い作品だと思います。

こういう作風好みですね〜。
芥川龍之介の「歯車」を彷彿とさせます。青空文庫でいつでも読めますので、ぜひお読みになってみてください。

読んでいただきありがとうございます。
皆様の幸運をお祈り申し上げます。

Note創作大賞に応募しています。
ご一読いただけると幸いです。







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