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【短編小説】鉄塔の町:蛇
利根祐太は幹線道路に面したファミレスの外回りを箒で掃いていた。祐太がバイトしているファミレスの店長は少しでも手すきのスタッフを見つけると、すぐに掃除を言いつける。
祐太の仕事ぶりはというと、特別に真面目でもなければ不真面目でもなく、何事も無難にこなすといったところだ。要領がいいのだ。
今も黙々と掃除しているふりをしながら祐太が考えていることは、どのタイミングで、どういう風に赤石芹香に告白しようかということだった。
「利根君、見て…」
祐太と一緒に店の前を掃除していた芹香の声は少し震えていた。
芹香に振り向いた祐太は、それが指すものにすぐに気づいた。地響きを上げ幹線道路をこちらに近づいて来るのは、軍のトラックの列だった。
一台目、二台目、三台目と目の前を通り過ぎるたびに、祐太と芹香は右から左へと首を回して見送る。
「また避難民の人たちね…」
芹香はため息交じりの声を漏らした。
「どんどん増えていくね。避難してきた人」
と、トラックを目で追いながら祐太。
「やっぱり南町に行くのかな?」
芹香もトラックを目で追いながら言う。
「そうだろうね。受け入れ場所は今のところ南町しかないもんな」
と祐太。
「そのうちに町に住んでいる人たちよりも多くなるんじゃない?避難民の方が…」
と言った芹香の口調に不謹慎さはなかった。現実に直面した恐れがあった。
祐太と芹香の前をトラックが次々と通り過ぎていくにつれ、辺りは排ガスと巻き上がる粉塵の密度が増して、トラックの車列の後方に傾いていく太陽の輪郭さえぼやけて滲んでいる。
「このトラックが最後ね…」
車列の最後尾のトラックが走り去ったあと芹香は安堵したように言って、ファミレスの入り口の方へ歩き始めた。
「最…後…じゃ…ないよ…」
祐太の声は小さくて、それに震えていて芹香には聞こえなかった。祐太は最後のトラックを追いかける半透明な黒い人影の群れが、まだ長く長く続いているのを見ていた。
「蛇…」
祐太は思わず漏らした。
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