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2023年冬の観たもの①南座の団十郎襲名と白山湯

そろそろ記憶が薄くなり始めるので、書いて保存しておこう2023年冬。
師走な12月末、珍しく旅に出た。目指すは京都、南座。十三代目市川団十郎の吉例の顔見世、襲名披露を見に行く。助六と景清を一度見たいと思いながら、なかなか見れずにいたがここで奮発しておかないと後先何年見れないかと思って重い腰を上げて電車にゆられ京都へ。諏訪湖を眺め雪の塩尻から名古屋に出てそこから京都の四条河原町。京都は何度も来ていても、初めて祇園の周りに来た。鴨川寒い。
鴨川の 光も寒し 垂れ柳 
南座はこりゃ知らなかったが美しい建物だった。父が昔京都で夏を過ごし、そこでいつも食べていたというにしんそばの老舗、南座の横にある松葉で遅い昼食。これから夜の部を見る腹ごしらえ。美味し。にしん美味し。子供のころはこの甘ったるいにしんが苦手だったのに、美味し。
甘露なる にしんにぴりり 七味そば
今回の南座の席は、団十郎、その子八代目新之助の襲名披露なもんで、なかなか席が取れないのでちょいと高めの席。奮発。
しかし南座、こじんまりとしているとは聞いていたがいい劇場である。なんともよくまとまっているしロビーやら顔見世の竹馬(贔屓筋がお祝いに出す竹馬というのが、京都にはあるらしい)が並ぶところも存外広い。祇園なだけあって、竹馬には芸妓舞妓さんなんだろうなぁという名前もある。
時間が少しあるので外にいると、宝くじ売り場。そこに並ぶおばちゃんが、今年は新之助の坊やの襲名を見れたから寿命が延びたと売り場のおばちゃんと話しているのを聞いて、えい縁起と宝くじを買う。
開幕は一力茶屋。仁左衛門。二度目かな見るの。国立の通しの仮名手本忠臣蔵で見たからもう何年前だろう。力弥に中村苔玉が出ていた。この人、前に団十郎が甲府に襲名披露で来た時に舞踊の松竹梅で知ったけれど本当に所作が美しい。こう、衣の動きがとても良い。今回も出番は少ないがあっと目を奪われた。
襲名口上。役者が裃で居並ぶと壮観。団十郎の睨み披露。
そこから助六。助六はなかなか長い一幕。二時間ほどか。前に十一代目の映像を見たことがあるから筋は知っている。吉原の話だが、花魁道中をするのが最初の目玉。そこから花魁の意地なところを見せていく、というか気に入らない客は袖にするという心意気というか。この演目、吉原の女たちに大人気で、七代目団十郎の時など貸切って見たとかなんとかだが、確かにこれはなかなか自分たちでは言うことのできない吉原の意地を代弁したところで人気の理由がわかる。普段の鬱憤が晴れるやり込め方。そこからは助六が出て、花道で傘の踊り。そこからまぁ色々と立ち回って親分の髭の一休の子分たちへの啖呵切り。ここが見せ場で、早口で捲し立てるところだ。今代の団十郎は、舞台で見るとこう癇癪な感じがない。扇雀の白酒売りの兄が出てきての韓信の股くぐりで通行人にいちゃもんをつけて股をくぐらせるところが、コメディちっくでもあり、メタ的な調子で、鴈治郎が通人。ここで通り人が無言で股くぐれという助六に、対して、襲名の祝い、病気の快癒などその時々のお目出度をセリフに入れていくのがいつからあるかは知らないが助六の趣向で、笑いを取りつつ縁起であり、助六が祝言的な演目として使いやすい理由であるのだろう。
母親が出てきて、兄弟ともども頭を下げるところは、ああこういう伊達男が急に母親に弱い息子になる所を見せて緩急が良い。十三代目団十郎、ここがとても良かった。少し情けないところを見せるととたんに味があるなぁ。
あとは意休との刀を抜かせてのところで、曽我ものの筋に流れる。
この助六、生で見てやっとわかったが、稀代の色男の代名詞。なぜかなと思っていた。女郎花魁たちから口をつけた煙管をのんでくれと貰い、煙管の雨が降るという調子なのだ。これは、案外祝言と筋のためにつけたと思っていた曽我兄弟のかたき討ちの念願というのが大きい。色男で吉原通い、喧嘩ばかりする伊達男。こう見れば遊び人風情なのだがその実すべてが、刀を探すための行動である。その心根だから、女も喧嘩もどこか上の空なのである。大義の為に少し上の空な男伊達。花魁が心を尽くしても、どこか遠くを見ている色男。ここに魅力があって、啖呵のところも本当に怒って啖呵を切っていないのだ、だから執着のない爽やかな啖呵になる。なるほどなぁと思いっぱなしの二時間はあっという間。
せっかく祇園の夜だ街だけでも歩いてみようと冷たい夜風。ここ歓楽街なんだね、キャバクラやクラブがたくさんあってちょうどお嬢さまたちの出勤にかち合ってまぁ美しくもじろじろ見てしまう訳にも行かないので八坂神社へお参り。夜でも開いている。それから舞妓さんたちがいる地区に迷い込み、一人か二人舞妓さんが歩いているの見かける。しんと静まる町。小さな明かりの向こうには茶屋が並ぶ。漏れ聞こえてこない茶屋の賑わい。微かに空気を嗅いで、まったく縁がない世界の夜だと帰路に就く。
ホテルについて、夜京都に来たら行きたいところが一つあったと、観劇につかれた頭に気合を入れなおして向かうのが、白山湯高辻店。サウナイキタイ京都ランキング一位のサウナがある銭湯。ピーナッツくんのサウナレポで見たから行きたかった。


さすが人気店めちゃくちゃ混んでるし客層が同年代からそれより若い兄ちゃんたちが多い。ピーナッツくんレビューだとおじさんたち多めだったが、夜遅いからか。サウナはこじんまりとしていてとても熱い。116度だって。ピーナッツくんはそこまでじゃないって言ってたけど熱い、熱い。
混んでるのでなかなかすぐ出るって感じでもないし、ぐっと我慢して留まってから、水風呂。水風呂はライオン水口からどばどば打たせ水。温度差がガツンと来る。そしてなんといっても露天風呂があり、そこは洗い場もあり、椅子もありの広々スペース。12月京都、椅子に座り、じっと目をつぶる。地元の兄ちゃんたちの就職話に花が咲ている声が、だんだんと遠のいていく。夜風の冷たさ、床の冷たさ、頭には見てきた南座の助六がぐるぐる。それも遠くなって、ずんと椅子に沈み込んでいく。これかぁ整いって言われてるやつって。気持ちいい確かに気持ちいい。サウナは銭湯とかジムとかで入るけれど、ここまで温度差がなかったから今まで気持ちよくてもそれだけだったが、これかぁ。初整いです。確かにハマると思うけれど足が冷たくてこれ以上は、ともう一度サウナ。けれどもうあの感じは来ることはなく、熱いお風呂で暖まり出る。はんなり番台さんが、若いこれからな夫婦と仕事はねぇ夫婦はねぇとまるで人情小話みたいな話をしている。
独り身に 沁みる幸せ 白山湯
それを聞きつつ外に出て、京都の一日目の夜は更けていった。

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