【読書記録】君が手にするはずだった黄金について/小川哲
こんにちは!
今月頭には、今年の本屋大賞ノミネート10作品が発表されましたね。
全国の書店員さんがおすすめするだけあって、通常は手に取らないような作品にも出会える賞なので、毎年楽しみにしています。
本日はその10作品のうちの一つ、こちらの作品についてご紹介します!
ノミネート作発表後、最初に本屋さんで購入した一冊になります。
一見すると「おかしな」あの人が・・・
著者自身を連想させる小説家の主人公、小川と呼ばれる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する6つの連作短編集です。
その人物たちは皆、「承認欲求の塊」。
見るからに不自然な嘘で自分の存在を塗り固めたような人々です。
一見すると関わるべきではない、そんな人物に、初めは嫌悪感を抱くものの次第に主人公は、彼らに興味を持ち始めます。
さすがは小説家の思考力をもってして、相手の本質に迫っていく「僕」。
そこで読者は、何かがおかしいことに気づき始めます・・・
これって一体、誰のことを言っているんだったか?
「僕」が出会った、見るからに怪しい人物。彼らと対峙する「僕」にも、その物語を俯瞰から眺めているはずの「読者」にも、この思考が突き刺さります。
読めば読むほど、そして考えれば考えるほど、自分の立ち位置がぐらつき始め、沼に堕ちていくような、そんな不思議な感覚を覚えるでしょう。
そして読後はきっと、自分は一体何者なのか分からなくなってしまうと思います。・・・ちょっとゾッとしますよね。
小説家の思う「小説家」とは
小川哲さんは前作、『君のクイズ』という作品でも昨年、本屋大賞にノミネートされています。
こちらはクイズプレイヤーである主人公の「思考」の移り変わりが物語の軸となって展開していて、まさに「頭の中」が物語の舞台ともいえます。
今作も主人公の「頭の中」に入り込んだような、そんな錯覚を覚えるような作品でした。
この物語自体、本当の出来事なのか、そして登場人物たちは実在するのかどうかは明らかになっていません。だけど一つ私が確信しているのは、
「僕」の思考部分については、著者である小川さん自身の思いが嘘偽りなく乗せられているのではないか、ということです。
著者自身を彷彿とさせる主人公。
自らの思いを100%乗せて発信するには、最も効果的といえます。
まるで小川哲さんの頭の中に入り込んだような感覚で、「小説」や「小説家」に対する数々の彼自身の思いに触れることもできます。
全ての小説家がこう考えているとは思いませんが、「自分には才能はない」と言い切ってしまっていることが、
少なくとも私の思う「小説家」とは真反対すぎて驚かされるとともに、「小説家」である前に、彼らも私たちと何ら変わりのない一人の人間であるという、当たり前の事実にハッと気付かされます。
「僕」が人間としての欠損と認識する自らの愚かさ――。
自分のことを好きになれない自分自身(読者)――。
一見すると嫌悪感の塊のような登場人物たち――。
この作品を読んでいるうちに、この3者がだんだん紙一重となっていき、いつのまにかぴたっと重なる。
帯にもある「認められたくて必死だったあいつ」とは、一体誰・・・?
いつの間にかこんな問いが自らに突きつけられ、心をえぐられることでしょう。
非常に深い著者のメッセージに、自分自身を見つめ直すきっかけをくれる本です!
こちらの作品、気になった方はぜひ手に取ってみてください!
読んだことのある方は、コメントで感想を教えていただけるとうれしいです^^
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