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ツバメ夫の北信田舎暮らし:俳句とエッセイ 006

草刈れば突風来たりて蕎麦の渦

私は田んぼ3枚を管理している。田んぼ一枚の登記簿上の地積は約一反(約1000㎡)だが、実際の作付面積は、その6割程度だろうか。

私の家から500 メートル ほどのところにある集落内の田んぼ2枚では蕎麦を栽培し、1 km ほど離れた隣の集落内の田んぼ1枚では去年から稲作をしている。

管理するということは、所有者から農地を預かって、耕作する権利を得ることであると同時に、周辺部の雑草を綺麗に刈り、間違っても耕作放棄地のような状態にしない義務を負うことでもある。

中山間地の農地は、集落ごとに管理組合を作り、耕作放棄地が出ないように、各組合員が相互協力して、村落の農地の機能と美観を保つ。

共同作業としては、灌漑用水路や集落の農地全体を囲う電気柵の維持、管理など。また、各個人は、所有、または管理している農地をしっかりと運営する。

そのような努力に対して地方自治体から、僅かながらの助成金が管理組合に支給され、中山間地の農地を維持、保全するために必要な原資の一部となる。

助成金が支給される前に、当然のことながら、該当する農地が適正に管理されているかをチェックするための実地検分が行われる。

その検査は通常9月半ばから末の間に行われ、この時期になると管理組合長さんから、田んぼ周辺のあぜ道や斜面に生えている雑草を綺麗に刈り取るようにとの依頼書が配布される。

平地の田んぼと違って、中山間地の田んぼは多かれ少なかれ、棚田の田んぼである。隣接する田んぼと田んぼの間には、高さ3〜4メートルほどの急な斜面がある。

この斜面の草刈りが老人にとってはかなり厳しい。斜度が45度以上あるんじゃないかと思われる斜面に足を踏ん張り、重さ6 kg 以上のビーバーと呼ばれるエンジン式刈払機を振り回しながら草を刈る。

普通の長靴では斜面に止まることはできない。ズルズルと滑り落ちてしまう。斜面の草刈りには地下足袋がベストであることを地元の人から教わった。

地下足袋なら、足の親指一本が引っかかる小さなくぼみがあれば、踏みとどまって体を安定することができる。

いずれにしろ危険で、体に負担がかかる作業であることは間違いない。まだ残暑が残る中、万が一熱中症にでもなって、意識を失って、高速回転している刈歯の上に倒れ込みでもしたら、とんでもないことになるだろう。

作業は通常、日中を避け、早朝と日没前に行うことにしている。水分を補給しながら作業する。それでも、ビーバーの燃料タンクが空になる、一時間半ほどの作業後には、発汗のせいで体重が1 kg 以上減っている。

そのような暑い中でのビーバー作業では、特に風が意識される。緩やかなわずかな風でもありがたいものだ。

草刈れば夕風起きて蕎麦揺れる

一陣の風が、汗にまみれた顔を撫で、白い満開の花を咲かせた蕎麦をゆらゆらと揺らす。草刈り作業をしながら、それを目にする一瞬が、とても充実した時のように感じられる。

だが、風が強すぎるのは問題だ。突風で、麦わら帽子が吹き飛ばされ、蕎麦が鳴門の渦のように荒れ狂うのを見ると、ここまで無事に育ってきた蕎麦が倒伏するのではないかと心配になってしまう。その時に作ったのが表題の句だ。

私は一週間ほどかけて、3枚の田んぼの草刈り作業を無事に終え、今この記事を書いている。

厳しい作業ではあるが、草刈り作業は私の健康に大いに役に立っていると確信している。毎朝計測している血圧はきわめて安定する。平衡感覚が研ぎ澄まされ、骨格を保つための各筋肉が補強されるのを実感する。







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