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【epi-01】問いと答え

追記:記事の公開順に誤りがありました。本来はこちらより先に、施設長佐藤さんの未掲載インタビューを公開する予定でした。
次回更新時に未掲載インタビューを公開し、この続きはインタビューの公開が終了次第公開いたします。

【当たり前、じゃないな】

 「gente vol.021」です。21号ですって。年4回の発行ですから、もう6年目に入ったことになります。創刊当初、ここまで続けると思っていませんでした、というか想像できていませんでした。「長く続けられたらいいな」との願望からナンバリングを3ケタにはしたものの、「実際ここまで続くとは」というのが正直な気持ちです。とはいえ日々の積み重ねがそうなっただけのことで、そんなに「続けること」を意識しているわけでもないのですが、続けていると慣れてしまうこともいろいろありまして。そのひとつが「毎号取材できている」ことです。別にことさら誇るつもりもないんですが、これ、当たり前じゃないなとあらためて思うんですよね。

 よく読者の方に「取材する人はどうやって決めているのですか?」と聞かれます。なんでそんなに取材を受けてくれる障害者と出会えるの?と思われる方は多いですね。が、もう5年続けているとそこはあまり意識していなくて、普段は「取材できていて当たり前」な感覚になってしまっているのですが、あらためて読者の皆さんに聞かれると「確かにそれはそうだ」と思うのです。



 難しいと思うんですよね。自分のこと、直面している障害について話すのって。どちらかといえば話したくない人の方が多いでしょうし、特に目に見えない障害、見た目にわからない障害の場合はなおさらそうでしょう。なので「gente」の取材でも、見えない障害に直面する方々との出会いは簡単ではなく、発達障害の取材も前々からもっと取り組みたいとは考えていたものの、なかなか取材を受けてくださる方と巡りあえない、といった状況でした。が、2022年に雇用に特化したgente地域版「わたしと職場と」に取り組んだことがきっかけで、状況がちょっと変わりました。
 それまであまり縁に恵まれなかった障害者雇用の取材機会を得て、あらためて企業で働く発達・精神障害の方々が多くいることに気づいたんです。「障害者雇用の取材を受けてくれる企業が見つかれば、発達障害の取材にこぎつけるのは恐らくそれほど難しいことじゃないな、ま、その企業を見つけるのが簡単じゃないんだけど…」と、「gente」でも発達障害の取材をするべく考えていたところ、意外な形でその機会と巡りあいました。

【偶然の機会】


 「わたしと職場と」は東京都中央区限定の地域版だったので、区内に新たな配架先をできるだけ多く作る必要があり、関連する施設をいくつも回って配架依頼をいたのですが、その中の一つが小谷さんの勤務するコンフィデンス日本橋でした。
 コンフィデンスさんはたまたま「わたしと職場と」の1号目で取材した方(以降Aさんとします)とご縁があった施設で、そのおかげもありとても配架に協力的で、部数も多めに置いていただいたので何度かお伺いしたのですが、ある時たまたま応対に出てきてくれたのが小谷さんでした。
 もちろんその時点では、小谷さんが発達障害の当事者だとはわかりようもありませんでした。が、今思うとちょっとした違和感は感じていましたね。とはいえ丁寧に応対してくれようとしていたので、何かちょっとしたぎこちなさというか、その程度のものではありましたが。
 で、肝心の「なぜ小谷さんが当事者だとわかったのか」なんですが…実は良く覚えてないんですよね。どういうきっかけでその話に及んだかは失念してしまったのですが、おそらく「わたしと職場と」について施設長の佐藤さんとお話をさせていただいていた時に伺ったのだと…たぶん(苦笑)。

 以前にADHDやLDの方の取材機会はありましたが、発達障害の中でまだ「gente」で取材機会がなかった(「わたしと職場と」では取材機会がありましたが、「わたしと職場と」はあくまでも地域版で、配架規模が違い別扱いなので)のがASDの方でした。ですから小谷さんが当事者だと知って「これはぜひ取材をさせていただきたい、しかも当事者でありながら職業指導をする人なのだから、いろんな視点を持っていそうだし」と期待が膨らむのと同時に、「ま、でも断られることも想定しとかないと、ぬか喜びしないように」と自分に釘をさしていました。
 見た目にわからない障害ですし、小谷さんの印象も「言われなければそうとはわからない」くらいの方で、せいぜい「ちょっと変わった人だな」程度ですから。わざわざこの取材を受けて、自らの障害をオープンにしてくれるかはやはり不安だったんですよね。なので「ダメもと」というほどに悲観的ではないにしろ断られても仕方ない、との心持ちで取材の打診をしたので、けっこうあっさりと取材OKの連絡が帰ってきた時にはちょっと拍子抜けしたほどでした。(もちろん小谷さん自身が「この取材依頼についてどの程度考えられたのか」までは把握していないんですが)


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 で、決まったはいいものの。「あれ、でもまだ全然小谷さんのこと知らないな、これじゃどういう取材にしていいかもわからんぞ」と今さらながら気づいたんですよね。なのでまずは事前の面談をさせていただくことにしました。いつも取材前にやっているこの面談ですが、今回は特に時間をかけてやらせてもらいましたね。あらためて話をしてみると、小谷さんは「本当にそうなのかな?」と思うくらい、特性が前面に出る人ではありませんでした。

 あくまで個人の主観ですが、発達障害の中でもより特性が表に現れやすいのがASD、という印象を僕は持っています。こだわりの強さやコミュニケーションの苦手さなど、もろに人との関わりに影響する特性が多くあり、人によってはそれこそ会って間も無くてもそれとわかるくらいです。が、小谷さんの場合は本当にわからないんですよね。せいぜい言葉のチョイスというかしゃべり口調から「ちょっと変わった人だな」という程度で、ASDだとはなかなか思えないんです。いくらご本人から「コミュニケーションが苦手だ、空気が読めない」と言われても、言われれば言われるほど「いやいや、充分コミュニケーション取れてますけど」という具合に。

 以前「わたしと職場と」でインタビューしたAさんの場合は、正直かなり難しさを感じたんです。何が難しいって、やはりこだわりの強さや空気の読めなさ(※1)ですよね。インタビューしていても聞かれていることに答えるより先に自分が話したいことを優先して延々話し続けるとか、それによって話が噛み合わないとか。その場でインタビューに立ち会ってくれていた雇用側のフォローもあって、最終的にはかなり内容の濃い、得るものの多い取材で大成功だったのですが、その過程はなかなか聞きたいことが聞けない、求めている内容が引き出せない状況があって。それをどうしたものかと、その場での試行錯誤を強いられながら取材していた記憶が、自分の中に強く残っているんです。

 ま、一口にASDといっても特性には幅があって、Aさんにつけられた元々の診断は(※2)小谷さんのものとは異なりますので、印象が違っても当たり前なんです。なのでインタビューとしてはとてもスムーズでやりやすそうだなと感した反面、どうやって特性を読者さんにわかってもらおうか?というのは考える必要がありましたね。Aさんはそこをあまり考えなくても、インタビューを文章にするだけで充分特性を感じられる方だったのに対して。



※1:日常的な会話に支障があるわけではなく、その時の話題が障害特性や好き嫌い、仕事上のこだわりなどに関わる内容であったため、より顕著に特性が出たものと推測していますが、結果としてインタビューの進行自体はスムーズにはいかず、難しさを感じました。

※2:アスペルガー症候群、広汎性発達障害など細分化していた診断名ですが、2013年のアメリカ精神医学会の診断基準DSM-5の発表以降、ASD(自閉スペクトラム症)と統一されるようになりました。それ以前に診断を受けている人には、以前の診断名で自分の特性を把握している人が多くいます。


今回はここまで。
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