【01】インクルーシブな社会を目指すきっかけと、具体的な取組事例

vol.020の未公開インタビューは、中川さんご本人ではなく勤務する会社の代表、依田和孝さんのインタビューをお届けします。
vol.020本紙でご紹介したように、中川さんは就職活動でだいぶ苦戦されていました。ハローワークや就労移行にも通って情報収集やスキルアップを図っていたそうですが、4年制大学の新卒採用でそこまでする事例は聞いたことがありませんでした。
そんな中川さんを迷いなく採用し、会社として大いに成果を出せたのはなぜなのでしょうか。ヒントは依田代表の考えの中にありそうです。


g:インクルーシブな社会や雇用環境の構築に関心を持たれたのは、どんなきっかけからなのでしょうか。

代表:私はアメリカで幼少期を過ごしているんですけど、日本に帰ってきて特別支援学級や特別支援学校があるのを知って驚いたんです、「なんで分けてるの?」って。アメリカでは皆一緒なんです。ダウン症の子も障害を持った子も一緒だし、日本て不思議だなと思っていました。
今は経営者としてロータリークラブや商工会議所に入っていますけど、「障害者とどう関わっていいかわからない、だから採用できない」と言う経営者の方々がまだまだ多くいらっしゃるんです。依田さんの会社はよくやられていますね、と言われるんですけど、弊社が「うまくやっている」わけではないと思うんですよね。やはり大半の経営者の方々は、障害者と関わる機会がなかったからわからないんだろうと思うんです。「一緒に過ごせばわかりますよ」と言うんですけど、どうも「それも今更できない」と考えている人が多いように感じますし、それで結局職員に指導できないから雇えない、という考えに行き着くようなんですが、そうじゃないんですよね。まずは一緒に働く、同じ空間の中で一緒に時間を過ごすこと自体が職員の教育になるんですよ、と話すんですけど、 なかなか伝わらない。

g:やはり障害のある人と接する機会がなかった、経験がないからどうしていいかわからない、想像できないんでしょうね。

代表:だからやはりそこは私たちの運営する保育園で実践しているように、障害児や医療的ケア児とも皆一緒に過ごして、学校も特別支援学級をなくして、皆が一緒に過ごす機会を作る。その子たちが大人になった時にその中から経営者が生まれたら、きっと障害者と共に仕事をするのはごく普通のこと、として捉えられますよね。それは子どもの頃からそういう経験をしていないと、ちょっと難しいんだろうなと思っていて。ですから国が作る障害者就労支援事業というのも「わざわざ分ける必要ある?」と私は思いますし、結局障害者の就職が難しい状況になっているわけじゃないですか。
できる/できないは誰にでもあって、健常者だってできないことはたくさんありますし。できることにフォーカスする環境が日本は整っていないな、というのが正直な所ですよね。日本では皆が横並びで同じように、という感じですけど、アメリカだとアスペルガーの子が飛び級で大学に行ったりもする。そういう特別な能力があるのは健常者も障害者も同じなんですけど、その特別な能力を伸ばせる環境を作るのが大人の仕事だし、経営者の仕事だろうと思うんです。障害者雇用を特別視せず通常の雇用と同じように、障害を持っていても仕事に影響なく働ける、できることがあるのであれば採用していきたいと考えています。

g:では今後も、障害のある人を積極的に雇っていきたいとのお考えなんですね。


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代表:はい、弊社は就労継続支援A 型とB型の事業所を運営していますけど、やはりそこからの卒業を目指していただきたいと思うんですよね。ハローワークの障害者雇用担当者さんからも頻繁に連絡をいただきますけど、一般企業での就労はまだ難しいかな、という方々は、まず弊社の事業所で仕事に就いていただいて、という形ですね。

g:とはいえ企業としては成果を要求するわけですから、障害のある人を雇うメリットを代表はもちろん感じているんですよね。

代表:働き手がどんどん減っている中で、障害のある人と一緒に働く環境が作れないとおそらく今後事業として残せないと思うんです。私は少なくとも各事業所に1 人は障害のある方がいるべきだと考えていて、今は2つの保育園で精神障害をお持ちの方が保育士を目指して働いています。本人にとっては週5で働くってチャレンジで大変なんですけど、多少ハンデがあったとしても充分戦力になれているので。「体調を見ながら働いてくださいね」とは言うものの現場は現場で忙しいので、中には「この人と同じ時給なの?」という人もゼロではないです。それでも「じゃあこの人がいなくなってもいいの?」って聞くと、「いやそれは困る」という話にもなりますし。「保育をやりたい」と頑張っている人なので、それに障害の有無は関係ないんだよという思考がようやく職場に根付いてきた感じはありますね。本人にとっても自己成長の場になりますし、職場のメンバーも成長していると私は感じています。文句を言いながらも、ちゃんとチームビルディングできていますから。まぁ一朝一夕にはいかないですけどね。


依田代表が障害者採用に対して変に構えすぎず、できることにフォーカスした採用が行えるのは、幼少期を過ごしたアメリカでの経験にルーツがありました。実体験に基づいた取り組みだからこそ迷いなく推進できるのでしょうし、初めは半信半疑だった職員の皆さんも、まずは一緒に働いてみればそれぞれが自分の感覚として依田代表の考えを理解できる、そんな風に感じられました。
次回は具体的な事例として、中川さんの採用と仕事ぶりについてお話しいただいています。ご期待ください。

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