「スピリチュアルジャズ」で多幸感に包まれて空を飛ぶ!
「スピリチュアルジャズ」についての説明は各所にゴマンとあるし、素人の私が説明するのもツライし申し訳ないので省きたい。コーダルとかモーダルとか楽譜を指差しながらの専門的な解説は詳しい方におまかせしたい。
「スピリチュアルジャズ」というのは読んで字の如く「神秘的なジャズ」である。
元々はモダンジャズのサブジャンルなので、モダンジャズとの音楽的な違いは特に無い(はず)。
ジョン・コルトレーンが「神へ捧げる音楽」として作り上げたアルバム「至上の愛(1965)」がその始祖とされている。
とにかく神様とか山とか青空とか夜空とか星空とか宇宙とか土星とか、音楽を届ける対象が地上の聴衆じゃなくて上空に向かっている「感じがする」のが一つの特徴で、西洋音楽的な決まりごとをすっ飛ばして、ポリリズムだったり反復的なボーカルだったり演奏だったり、呪術的でトランシーな民族音楽の影響下で仕上がっている類のジャズを総称して「スピリチュアルジャズ」と呼ぶ。
あくまでサウンド的特徴としてなんとなーく神秘的な雰囲気を持つジャズ、という程度の意味合いでライトに使われているジャンル名なので、音楽そのものにいわゆる神秘主義的な強い主張があるわけではない。別に聴いた人に水晶玉を買わせようとするような音楽ではない。
まあ音楽的な定義は非常に曖昧っぽいので、聴いてる人が「スピリチュアルジャズだ」って思ったらそれはスピリチュアルジャズなのである。
みんなで集まって踊るためのスウィングジャズでもなく、ドレスコードでグラス片手に聴くビバップジャズでもなく、スピリチュアルジャズは畏敬の自然や宇宙との繋がりを感じながら高揚感でフワフワするための音楽である。
インド哲学で言う梵我一如みたいに、人間の内省と宇宙真理が表裏一体だとするならば(スピリチュアルっぽくなってきた笑)、カジュアルかつパーソナルな現代的なイヤフォン/ヘッドフォンリスニングと非常に相性がいいと思う。
「至上の愛」以降はコルトレーン本人や周辺のジャズミュージシャン達がスピリチュアルジャズライクなアルバムを散発的に発表していたが、70年代に「TRIBE(トライブ)」「Strata-East(ストラタイースト)」「BLACK JAZZ(ブラックジャズ)」の「スピリチュアルジャズ3大レーベル」が誕生し、スピリチュアルジャズアルバムをまとまった作品群として市場に流入させた。
それらはインディペンデントレーベルが故の流通量の少なさで、「レアグルーヴ 」として後のクラブDJ達のディグのターゲットとなり、クラブプレイのためのクラブジャズ/ダンスフロアジャズとして80年代以降は消費されていく。
2010年代以降にはカマシ・ワシントンを筆頭としたスピリチュアルジャズフォロワーの若手ジャズミュージシャンたちがロサンゼルスからたんまり出てきて、スピリチュアルジャズはクラブカルチャーを通過し進化した「LAジャズ」として一つのムーブメントとなって今に至っている。
というわけで、あなたを空の彼方へ飛ばしてくれるスピリチュアルジャズナンバーをご紹介。
The Gathering / Pharoah Sanders
ファラオ・サンダースはジョン・コルトレーンの弟子筋にあたるサックス奏者ですが、クラブジャズ界では「神」であり、ジャズDJやクラバーの間ではおそらくコルトレーンよりも人気だし格上です。各方面で擦りに擦られまくるキラーチューン『You've got to have freedom』ではなく、『Elevation(1974)』よりあえてこの一曲。とにかくピアノがカッコよくて、というかもはや冒頭はジョー・ボナーの曲ですが、ボナーの上品なピアノの後ろで「イェイェイェイェ」叫んでるファラオのコーラスとトランシーなコンガのビートが相まってこの上ない崇高な高揚感を味わえます。
Fly With The Wind / McCoy Tyner
スピリチュアルジャズ=モーダルジャズです。モーダルっていうのは要はコード進行ではなくモード(キー)を主体にした演奏のことなのですが、この辺は音楽に詳しい人から解説してもらってください。俺も何となくしかわかりません。モーダルジャズピアノの先駆者として後進のピアニストに多大な影響とフォロワーを生んだマッコイ・タイナーの代表作『Fly with the wind(1976)』よりリード曲。浮遊感、高揚感、これぞモーダルの最高峰。
Tropic Sons / Abdul Rahim Ibrahim Formerly Doug Carn
前述のブラックジャズレーベルの創設者の一人であるダグ・カーンが自らのムスリム名義で発表した『Al Rahman! Cry Of The Floridian Tropic Son(1977)』より。
青空に突き抜けるようなハッピーで爽快なポジティブバイブス溢れるスピリチュアルジャズナンバー。
Peace of Mind / Wendell Harrison
フィル・ラネリンとともに前述のトライブレコードを創設したウェンデル・ハリソンのリーダー作『Organic Dream(1981)』より最高のナンバー。
もう説明不要です。
オンビートの瞬間の高揚感、最高です。
Final Thought / Kamasi Washington
LAジャズを世界に知らしめたカマシ・ワシントン『The Epic(2015)』より。多幸感というよりは戦いに赴く人のためのアンセムって感じのオンビート。アドレナリン上がるぜ。戦うことないけど。
Live For Today / Brandon Coleman
もうひとつLAジャズよりキーボーディスト、ブランドン・コールマンのリーダー作『Redistance(2018)』からこの一曲。もはやジャズなのかフュージョンなのかフューチャーファンクなのか分類不能ですが、高揚感という意味ではスピリチュアルジャズの現代最前線という感じ。かわいい女の子と星空を浴びながら聴きたい。彼女欲しい。
利根 / 板橋文夫
せっかくだから日本人も。マッコイ・タイナーが好きなら板橋さんです。ジャズピアノですが純邦楽っぽい旋律が随所に聴こえて、日本的なトラッド感があってカッコいいです。桜吹雪が舞ってる的な。
自らを土星人と称したサン・ラの諸作、ジョン・コルトレーンの嫁さんのアリス・コルトレーン諸作、前述の3大レーベル諸作、他にもたくさんたくさん。
もちろん私も聴ききれていないので、ウキウキワクワクで空に飛んでいけそうなあなただけのスピリチュアルジャズ、見つけてみてね。
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