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音源化されない乃木坂46屈指のキラーチューン「まりっか'17」 と「伊藤まりかっと。」

乃木坂46の4期生楽曲のクオリティには驚かされるばかりである。

I See…(2020) / 乃木坂46

ジャンピングジョーカーフラッシュ(2022) / 乃木坂46

この完成度でどちらも表題曲(シングル)じゃないってんだから恐ろしい(掛橋待ってるぞ!)。

私は2015年頃から乃木坂46の活動を追っていて、妹分でありながらいつからかライバルのようになっていた欅坂46の凄まじい完成度の表題曲の連発リリースに嫉妬していた中堅の乃木オタである(ちなみに現在はだいぶbuddies寄り)。

表題曲(シングル曲)よりもカップリング曲やアルバム収録曲が人気だったり、「こっちの曲をシングルにすればもっと売れるのに」みたいなファン心理は、別に乃木坂46に限らずアーティストにはよくある話なのだが、乃木オタの私がとりわけ唸った乃木坂46の表題曲以外の楽曲が、「まりっか'17(セブンのティーン)」と「伊藤まりかっと。」である。

しかし、実はこの2曲、音源化されていない。なぜか。

乃木坂46では最初期より「メンバー個々のプロモーションビデオ」として「個人PV」なるものを制作している。基本的には「映像作家とのコラボレーション」というコンセプトで、映像はシングルCDの特典映像などで見ることができる。メンバーによっては詩の朗読やダンスのみなど楽曲だけに限らない。そして個人PVで使用される楽曲は、作曲はもちろん作詞も秋元康チームから離れて制作されている。

「まりっか'17」「伊藤まりかっと。」はどちらも乃木坂46一期生メンバーである伊藤万理華の個人PVとして制作されたもので、あくまで「映像作品」という扱いになっており、人気の楽曲にも関わらず音源化がされていないのである。

まりっか’17(2013) / 伊藤万理華

※『まりっか'17』は公式チャンネルで動画が公開されていないので貼りません。どっかで聴いてみてね。学校の廊下を延々と歩きながら歌ってるやつです。

伊藤まりかっと。(2017) / 伊藤万理華


伊藤万理華はこの2つのPVの完成度、再生回数をもって乃木坂ファンの間で「個人PVの女王」と呼ばれるようになる(他のPVも良いけどこの2曲がずば抜けている)。

楽曲と作詞の良さ、振り付けの良さももちろん(伊藤万理華はそもそもグループ内でもダンスの評価がかなり高かったメンバーの一人)なのだが、伊藤万理華独特の、前の音程に引っ張られるような歌い方と、奔放な活発女子みたいな抜けのいい歌声がとにかくクセになる。
伊藤万理華は両親がデザイナーで、絵を描くのが得意で、古着が好きで、アジカンと相対性理論が好きで、活動中期以降は美大に通いながらアイドル活動を続けた。乃木坂メンバーなのに東京メトロよりも井の頭線の香りがするメンバーだった。
グループ卒業後もファッショナブルなオーラをより増幅させてパルコで展覧会を開いたりしながら女優として活動中である。

何よりも、乃木坂46の一番の功績は、それまでドルオタ勢のタコツボ状態だったアイドルカルチャーにサブカル勢のファン層を取り込んだ点にある。ホドロフスキーのリバイバル上映に並んで行くような私の義理の兄が嬉々として乃木坂の話をするんだから、広げた裾野という意味ではAKB関連グループの比ではない。
おぎやはぎなんかと一緒に「アイドル聴くとかダセぇよな」とか本多劇場の楽屋で言ってそうなバナナマンを冠番組のMCに抜擢したのは本当にファインプレーだったし、バナナマンが好きでなんとなく番組を見始めた人たちがいつのまにか乃木坂にハマっていく、という流れはドルオタ勢以外が乃木坂ファンになる既定路線だった。

乃木坂メンバーの中にはもう一人、自分たちのアイドル活動を妙に俯瞰で眺めている橋本奈々未という超美人がいて、それまでアイドルに目もくれなかった層に対する「新規ホイホイ」としての役割を遺憾無く発揮した。
橋本は伊藤と同じ一期生(年齢は橋本が3つぐらい上)で、これまた美大出身で、好きなアーティストにゆらゆら帝国やナンバーガールを挙げるような、でも鼻につくような雰囲気は微塵もないクールな奥ゆかしさが魅力で、デビューしてから福神(選抜の前2列)漏れが一度もなかった(福神漏れ未経験者は橋本と白石麻衣の2人のみである。齋藤飛鳥や西野七瀬ですらアンダーや3列目の経験がある)超人気メンバーだった。
2017年に橋本はグループを卒業。メンバーの多くが卒業後も芸能活動を続けるのが慣例の中、橋本は芸能界そのものからも引退した。その山口百恵のような引き際で橋本奈々未はさらに伝説となった。


バナナマン、橋本奈々未、そして伊藤万理華が作った非ドルオタファン層が、今の坂道グループ支持層の基盤となったはずだし、私個人としてもよもや30過ぎてアイドルグループにハマることになるとは到底思わなかった。
欅坂46がサマーソニックに出たのも、齋藤飛鳥がハマ・オカモトと番組をやるようになったのも、最近の櫻坂46のドルオタ置いてけぼり感(いい意味で)も、ジャマビ=㋚論争(笑)も、すべては「坂道ブランドの方向性」を決める黎明期にその3人(組)の存在があったからこそである。

音楽ファンのみなさんへ、コアでカルトでアヴァンギャルドな方向に先鋭化していくのも良いけれど、ポップスだからって、アイドルだからって食わず嫌いするのはもったいないので、ぜひ本当の音楽ファンにこそ坂道グループを聴いてほしいのである。まずは「まりっか’17」と「伊藤まりかっと。」を。

乃木坂46について色々語りましたが、坂道グループ全体なら個人的には欅坂46のベストアルバムが邦楽史に残るレベルの完成度なのでオススメです(ちなみに欅だとしーちゃん推し)。

アンビバレント(2018) / 欅坂46


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