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鹿島先生とめぐるパリのMusée──鹿島茂のN'improte Quoi!「前回のおさらい」

「(鹿島先生の話を聞いてるととにかく)パリに行きたーーーい!!」と心の中で叫び続けて、はや1年半。なかなかその願いは叶わないのですが、毎月パリと、その歴史への想像力をはたらかせているゲンロンスタッフの野口です。シラスチャンネル「鹿島茂のN'improte Quoi!」で講義の聞き手を務めさせていただいております。

さて、6月13日の放送では5月にパリに行かれた鹿島先生が、そのときに周られた様々な美術館(Musée)や博物館(Muséum)をご紹介いただきました。写真も交えてご紹介いただいているので、それぞれの詳しい魅力は、ぜひ実際の放送でお楽しみいただきたいのですが、せっかくなのでどんなところをご紹介いただいたのか、おさらいしましょう!

1.まずは19世紀建築物の息吹も残るシャイヨ―宮、トロカデロ広場からスタート!

パリのシンボルというべき建築物は数多くありますが、エッフェル塔もその一つであることは言うまでもありません。そのエッフェル塔を眺めるのに最適なスポットとしても有名なのが、市内西部に位置する「トロカデロ広場(Place du Trocadéro)」。今回のお話はここから始まりました。

このトロカデロ広場の北西部に、両翼を拡げたような構造の建物が「シャイヨ―宮(Palais de Chaillot)」。1937年の万博に合わせて建てられたこの建物、実は構造部分は1878年の万博に向けて建築された「トロカデロ宮」のものをそのまま継承して立て直されています。
現在、このシャイヨ―宮は、現在美術館や博物館として利用されており、エマニュエル・トッドも通った「人類博物館(Musée de l'Homme)」、さらにかつての海軍への従軍画家らの作品や、海洋画も収めた「海洋博物館(Musée national de la Marine)」、かつて存在した映画博物館とシネマテークの跡地に建てられた「文化財博物館(Cité de l'architecture et du patrimoine)」があります。
中でも、非常に高い天井を持つ「文化財博物館」は展示物はもちろん、その鉄骨にも注目。前述の通り、トロカデロ宮の構造をそのまま利用している……つまりエッフェル塔(1887年着工)以前の鉄骨で、過去の放送でも解説いただいた「鋳鉄」を使ったものになっているのです。ガラス屋根とあわせて、ぜひ、こちらの構造物もじっくりと眺めていきましょう。
放送では、各美術館・博物館の写真やさらに詳しい見どころ、「トロカデロ」というスペイン風の名前の由来や、かつて存在した日本人学校のお話なども紹介いただきました。

トロカデロ周辺の見学を終えたら、一度左岸へ。先ほどの「人類博物館」とセットで楽しめる「ケ・ブランリ美術館(Musée du quai Branly)」を覗いてもいいのですが、ここはシャン・ド・マルス公園を途中まで抜けて、「サン=ドミニク通り」を通って東に向かいましょう。こちらは古い歴史のある商店街の通りで、鹿島先生もおすすめの通りの1つ。通りの両サイドには今もさまざまなお見せがあります。
今回の方角とは逆になってしまいますが、この通りはぜひ一度、東から西へ進んでみましょう。アンヴァリッド廃兵院の前に広がる公園を過ぎたあたりからは通りのお店だけでなく、正面に注目。ちょうどすこし角を曲がったところで、どーんとエッフェル塔を望むことができます。

↑ストリートビューで疑似体験……このあたりを真っすぐ進んでみましょう!

と、いうことで今度はパリの東側、マレ地区のスポットをご紹介します(実際にトロカデロからエッフェル塔を経由して歩くと8km近い距離になりますので、ご注意を!)

2.かつての貴族の邸宅が並ぶ、マレ地区へ

さて、たどり着いた右岸のマレ地区ですが、「マレ(Marais)」=「沼地」の名の通り、かつて湿地帯が広がっていたこともあり、パリの歴史の中でも比較的開発が遅れた地域でもあります。
このあたりを干拓し、開発を進めたのがテンプル騎士団。マレ地区の中でも北側のエリアは騎士団の館のあったあたりが、そして南側のエリアはアンリ4世時代に整備された南側の「ロワイヤル広場」……現「ヴォージュ広場(Place des Vosges)」が、マレ地区で目印となるスポットと言えるでしょう。まずは南側、ヴォージュ広場の周りから見ていきます。

ほぼ正方形のヴォージュ広場、南東の角に位置するのが「ヴィクトル・ユーゴー記念館(Maison de Victor Hugo)」。番組では簡単に触れるにとどまりましたが、デュマの『三銃士』に登場するある人物ゆかりの部屋がある建物でもあります。
そこからヴォージュ広場の北側の通りに出て、西に進み、セヴィニエ通りとぶつかるところにあるのが「カルナヴァレ美術館(Musée Carnavalet - Histoire de Paris)」。最近リニューアルオープンして展示フロアが大きく広がったこの美術館。鹿島先生も前回12月に訪れた際はすべて見て回ることができず、今回も再訪されたそうです。
充実の展示を観て回った後はもう少し西へ進みましょう。「アルシーヴ通り」に出て少し北に行ったところ、17世紀に当時の大貴族アンリ・ド・ゲネゴ(Henri de Guénégaud)が建てた、まさに「ゲネゴー館」と呼ばれる建物に「狩猟自然博物館(Musée de la Chasse et de la Nature)」があります。その名の通り、猟銃や弓矢・罠など、狩りの文化に関するものや、動物の剥製などが数多く展示されています。
このあたりにはほかにも「ピカソ美術館(Musée National Picasso-Paris)」や「古文書館(des Archives Nationales)」、サマリテーヌ百貨店創業者夫婦のコレクションが展示されている「コニャック=ジャイ美術館(Musée Cognacq-Jay)」など、さまざまな美術館や博物館が点在します。それらは、かつての貴族たちの邸宅を使ったものも非常に多く、建物も含めて楽しめるエリアです。

見かけたらぜひ手に入れよう!おすすめのガイドブック
番組では鹿島先生にお持ちいただいたパリの「ミシュラン・グリーンガイド」も使って、さまざまな場所をご紹介いただきました。
レストランなどのグルメ情報で有名な赤い表紙のミシュランのガイドブック。実は「ミシュラン・ルージュ」=「赤本」と呼ばれるこのレストランのガイドブックに加え、「ミシュラン・ヴェール」=緑、青本と呼ばれる名所・旧跡の歴史由来を紹介するガイドブックがあるのです。非常に充実の内容で、日本でもかつて実業之日本社さんが販売していたそう。
もし古本屋さんで見かけたときには「ぜひ手に入れるべし!」との鹿島先生の教えでした。

ちょっとブレてしまっていますが、こちらがグリーンガイド!

さて、今度はマレ地区の北側、テンプル騎士団に縁のあるエリアへ。「タンプル広場(Square du Temple)」のすぐそばにある、かつてのテンプル騎士団の館があった場所には、1863年、ナポレオン三世の時代に建て替えられた建築物「キャロ・デュ・タンプル(Le Carreau du Temple)」があります。

ここはキャロ・デュ・タンプルに立て替えられる以前から、古着市場として賑わっていたそう。19世紀後半以降、既製服が普及するまでは「仕立服」が非常に換金性の高いアイテムとして市場でやり取りをされていたんですね。当時の仕立服を使った錬金術や、鹿島先生がパリに住んでいらしたときのエピソードはぜひ実際の番組をご覧ください。そして、この施設もつい10年ほど前まで古着市場として活用されていたそうで、現在はさまざまなイベントが催される文化施設になっています。
現在は日本のファッション雑誌などで「北マレ」と呼ばれているこのエリア、こだわりのお店なども多い素敵なところなのですが、もう1か所、近くのおすすめスポットを紹介してもらいました。やや東に進んでタンプル大通りを横断した先のアムロ通り沿いにある「冬のサーカス(シルク・ディヴェール Cirque d'Hiver)」です。こちらは第二帝政期の1852年、先日まで講義でも紹介されていたオスマンもセーヌ県知事になる前にオープンした円形劇場。なんと当時の建物がそのまま使われています。夏は暑いので、冬場だけのオープンですが、かつて馬の曲乗りから始まって、現在もさまざまなサーカス、ショーが開催されているそうです。当時シャンゼリゼ通りのほうにはここと対となる「夏のサーカス(シルク・デテ Cirque d'Été)」という劇場があったように、19世紀のパリにはたくさんの「シルク=円形劇場」が作られていたそうです。

さて、いろいろなスポットを紹介してきましたが、最後はまた少し西に戻ります。夏のサーカスのあったシャンゼリゼ通りのそば、プチ・パレ(Petit Palais)に向かいます。

3.最後はプチ・パレ、そして次回は万博とデパート!

プチ・パレ(Google Map上ではプティ・パレ)は、前半にらっと触れたアンヴァリッドからアレクサンドル3世橋を渡り、シャンゼリゼ通りとぶつかる少し手前にあります。
この通りを挟んで向かいには、グラン・パレ(Grand Palais)という建物があり、いずれも1900年のパリ万博のために建てられた対を成す建物です。このグラン・パレのほうは現在改装中。かつてはここで大規模で格式の高い(軽く億もいくような値段の!!)古本市も行われていたそうです。そこにも参加したことのある鹿島さんの驚きのエピソードも、今回の放送の見どころの1つかもしれません。
一方、プチ・パレのほうは逆に改装が終って、現在はパリの市立美術館として運営されています。こちらの常設展をめぐる、フランス国内、とりわけルーヴル美術館の「印象派」に対する扱いや、現在企画展として実施されていて、鹿島先生も絶賛のサラ・ベルナール展などのお話をご紹介いただいています。

そのほかにも、かつて講義で取り上げたモンマルトルに位置し、庭園も素敵な「モンマルトル美術館(Musée de Montmartre)」とその近くにあり、モダン建築の巨匠アドルフ・ロースが詩人のトリスタン・ツァラのために設計した館(Maison Tristan Tzara)、さらに有名な「オルセー美術館(Musée d'Orsay)」で現在実施されているマネとドガの企画展「Manet / Degas」の魅力、さらには美術館とコレクションの関係、その選定や保管にかんする意外なお話(ルーブルの印象派絵画の扱い!)などなど、今回のおさらいでは割愛したところも含め、ほんとうに様々なスポットや見どころを、その背景も含めてご紹介いただきました。


半分ぐらいは「いつか自分もまたパリに行ったときのために……!」と思ってまとめだしたこちらのおさらい。すっかり長くなってしまいましたが、アーカイブ動画とともに、ぜひお楽しみにいただけたら幸いです。

さて、鹿島茂のN'importe Quoi!、次回の放送は6月27日。もうひとつの講座で、2月にした「『正しく考える方法』を考える」講座です!

2023.6.27 19:00~ 二元論と、二元論以外の考え方
「正しく考えるための方法」を考える・『思考の技術論』入門5

さらに、来月7月11日に予定している「パリの歴史」の講座は、「万博とデパート」がテーマ。どちらも必見!そして、5月末にお届けしたコラム放送、フランス挿絵本の世界の続編も準備中です。

今後も「鹿島茂のN'improte Quoi!」にどうぞご期待ください。


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