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直木賞候補二作品を読んで

 「襷がけの二人」 嶋津輝

「襷がけの二人」嶋津輝 文藝春秋

 山田家の嫁となった千代はそこで女中頭を務めるお初と出会う。
 大正から激動の戦後を一緒に生きた二人、この時代の普通から反れる彼女たちは、己が信じる道を泥だらけになりながらも力強く生きていた。それがほんとうに美しい姿として私には見える。こういうお話大好きです。また二人の絆の他にも大正から戦時下の時代背景やそのころ食べていた多彩な料理と食事風景、終戦後の貧困、女性の結婚(嫁入り)からの夫婦生活、また自立など様々な視点が描かれている。かなり詳細な描写なので、まるでそこに立って動いているような気にもなってくる。躰の性については、それこそ人の数ほど人の形があるというお初さんの言葉が印象的。
 人間模様では、こういう人今でもいるなぁと思う人もいて(タケさんとか)、煩わしかったり、嫉妬や羨望もあったりと、現代でも通じる悩みもあって共感する要因にもなっている。
 拝読後は和食が食べたくなりました。シンプルに白米のおにぎりと味噌汁でお腹いっぱいになりたい。大切な人と一緒ならなおのこと幸せだ。


 「まいまいつぶろ」 村木嵐

「まいまいつぶろ」村木嵐 幻冬舎

 徳川家重と大岡忠光の関係は主従、兄弟、友と色々当てはめて考えられるけど、私がイメージしたのは、一本の襷を互いに結んで並走する伴走者のような間柄に感じました。語り部は、忠光にとって遠い親戚の町奉行、吉宗さまの老中、また他の家臣、家重様の正室に付き添ってきた侍女など、二人を取り巻く外側からの視点が多く、周りからみた主従の関係や徳川家としての在り方をそれぞれの立場からものをいい、次第に情が湧き涙を耐えながら心を寄せていく。
 この物語の家重様は今までの中で一番慈しみ深く知性に溢れた人柄で、私もみんなと一緒に大好きになってしまった。
 欲を言えば最後の章だけでなく、もっと家重様と忠光のそれぞれの視点のお話が長ければなぁと思った。けれど結局のところ、彼ら二人の御心は測れるものではないのだろう。徳川家重様の新しい発見にもなった素晴らしい作品でした。
 読了後、普段小説のことを話さない家族にこんな物語があったと、喜々と伝えてしまった。映像化してくれたら嬉しいな。




 さて、直木賞発表は17日(水)の夕方以降。今回は事前に二作品しか読めませんでしたが、どちらも素晴らしかったです。発表も楽しみ。

幻ノ月音 2024.1/16 投稿


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