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自然資本とコモンズ(2):森林の多面的機能 by 長坂健司(GEN事務局)

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 自然資本の1つである森林が生み出す多面的機能は8つあります。普段、あまり意識していない森林の幅広い役割について、自然資本の観点から再確認してみましょう。もはや、森林の多面的機能を無償で享受できる時代ではありません。企業であっても、自らの企業価値を創造しようとするならば、自然資本の維持に貢献する必要があります。
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 自然資本には土壌、水、大気といろいろありますが、ここでは、森林に注目して話を進めます。

 ストックとしての森林が生み出す、フローとしてのサービスは多様です。日本の森林の約3割を占める国有林を管理し、公有林、民有林に関する施策の企画立案を行う林野庁は、森林が生み出すサービスを「森林の多面的機能」として8つの機能をウェブサイトで紹介しています。(林野庁:森林の有する多面的機能について:https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tamenteki/
◇生物多様性保全機能
 生態系の保全、種の保全、遺伝子の保全に関する機能です。
関連して、GENチャンネル「マクロ生態学の視点で共生を考える」の視聴もおすすめします。(https://www.youtube.com/watch?v=xNWTPVvaTWk
◇地球環境保全機能
 二酸化炭素の吸収や木質バイオマスの利用による化石燃料の代替効果などです。
◇土砂災害防止機能/土壌保全機能
 土壌表層の崩壊防止や雪崩の防止機能などです。
◇水源涵養機能
 洪水緩和、水資源貯留、水質浄化機能などです。
◇快適環境形成機能
 街路樹による騒音防止やアメニティ機能などです。
◇保健・レクリエーション機能
 森林浴、ハイキング、マウンテンバイクなどを楽しむ場所を提供する機能です。
◇文化機能
 森林教育や祭礼の場の提供、風土の形成などの機能です。
◇物質生産機能
 木材や燃料材、キノコなどの特用林産物、肥料や飼料などを生産する機能です。物質生産機能のうち、木材、燃料材、特用林産物の生産は、ストックである森林が生み出すフローの一部であり、「林業」を支えるサービスでもあります。

 なお最近では、生態系サービスという名称で、「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス」とカテゴリー分けされることが増えてきましたが、森林に関しては、上記の機能はすべて、これら4つのカテゴリーのいずれかに該当します。

図:森林の多面的機能のイメージ
出典:Metro Vancouver 
https://metrovancouver.org/services/air-quality-climate-action/Documents/climate-2050-nature-and-ecosystems-road-map.pdf

 皆さんが森林から受け取ることのできるサービスは、これだけ多様です。しかも、森林の持ち主や管理者でない限り、タダでこのサービスを享受できました。ところが現在、その享受者の数がとても多くなってしまい、もはやタダではだめだろう、という課題が私たちに突き付けられています。その享受者には、当然に企業も含まれます。森林の多面的機能として、企業が応分の負担をせずに受け取っていたサービスの一つとして水資源が挙げられます。

 しかし最近では、企業側もこの課題に対して積極的に取り組んでいこうとする姿勢が見られます。例えば、サントリーホールディングスは、2021年度に生物多様性の保全に関する支出として5億61百万円を計上しています(東洋経済ONLINE:「生物多様性保全」にお金を使う会社トップ100 https://toyokeizai.net/articles/-/699512?page=2)。

 
 このように、企業が森林の多面的機能に対して積極的に投資を行う姿勢は、これからさらに加速することが予想されます。企業が統合報告書に掲載すべき要件をまとめた国際統合報告評議会(IIRC)は、企業の長期的な価値創造に必要な資本として、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本を挙げています。企業の経営を考える上で、今後は自然資本が、財務資本と同等に重要であるという認識が一般的になると考えられています。


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