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ハイコンテクストな会話

最近、「ハイコンテクスト」という概念を知った。コミュニケーションや意思疎通を図るときに、前提となる文脈(言語や価値観、考え方、暗黙の了解)が非常に近い状態のことを言うそうだ。

この概念から、前の職場での会話を連想した。その職場では、上司がにこにこしながら、自分に向かって「おうshikadaくん、なんかのど渇いたな」と言うことがしばしばあった。これは、言葉の字義通りに受け取れば、水分の補給が不足して喉が渇く生理現象が起きたというだけの意味である。

しかし、その場の文脈では、「のど渇いたな」というのは「飲み会を企画しろ」という意味だった。最初は意味を受け取れなかったが、徐々に文脈を理解できるようになった。のどが渇いた=飲み物が必要=飲むといえば酒だ=飲み会を開催しろ、というように、前提となる文脈が(明言されていなかったが)いくつか存在したわけである。その意味でハイコンテクストな会話だったと思う。

ちなみに、「のど渇いたな」を近くで聞いていた再雇用のじいさま社員は、両手でのどをおさえて、いかにも渇きに苦しんでいるような表情をして見せていた。それから、お酌をしたり、グラスを傾けて飲み物を飲むジェスチャーをしていた。今思うと、あのじいさまは「のど渇いたな」の意図を理解して、非言語のメッセージを届けるというちょっと高度なことをやっていたなと思う。

この手の会話は、人間関係が長期に固定化された集団で成り立ちやすい。逆に、人の入れ替わりが激しい集団では、暗黙の文脈を共有することは難しいから「飲み会を企画してくれませんか」と伝える必要がある。

ハイコンテクストな会話は、言ってしまえば身内ノリが結実したものに過ぎないわけだけれど、本来必要な言葉を尽くさずとも意図が通じる(ことがある)点で、コミュニケーションの奥深さを垣間見ることができる。

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