彼女の指先は何を奏でるか ⑪

 「──お、おかえり」

玄関に立ち尽くしている彼女が見える。十日ぶりに見る彼女の顔は心を落としてきたかのように無表情で、頬が少しやつれて見えた。
そんな彼女と目が合ったまま僕は動けなくなった。
やっと帰ってきてくれた嬉しさと同時に、押し入れを開けてしまった事、そしてその最中である事を見られてしまった罪悪感……頭の中に “ ごめんなさい “ の五文字が浮かんでいるのに、口から発する事ができず全身が固まってしまって動かない。

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