竹渕玄規 / GENKI TAKEBUCHI
短編の詩集です。
note執筆2周年記念と致しまして、昨年一月より執筆していた初の長編物語 「君が差し出す偏光レンズから音が聞こえる」 を無料公開致します。 これを機会に私の物語に触れて楽しんで頂ければ幸いです。
強い日差しが部屋を明るく照らしている。 網戸から生暖かい風が流れ込み、蝉の合唱と共に空間を彩っていく。 ただただ天井の一点を見つめる僕は、今日も何もできないまま、何も生み出す事も出来ないまま、長い時間の中に囚われている。 抜け出せない深い森で、歩む事も諦めて、僕は空虚の中に身を投げ出したんだ。 何も起こらない。何も変わらない。右も左も、上も下も、何もわからない。自分の部屋なのに、自分の居場所がないような、自分がここにもういないような。 世界の終わりが来れば、一瞬で
魚。スーパーの鮮魚コーナーに並んでいた、死んだ魚。 きっと今朝まで優雅に泳いでいたのだろう、死んだ魚。 瞳は濁り始めている、それが今のお前。死んだ魚。 人間に付けられた値段で売買されて、どこの誰だかわからない人間の家のまな板の上。 お前はもう死んでいるけれど、少し前までは生きていたのに。 気が付けばまな板の上。 さようなら、魚。もう死んでいたけれど。 様々な場所で、様々な家庭で、様々な包丁で、様々な捌き方で、バラバラになっていくお前。 さようなら、さようなら
流れる大きな雲。青い空。熱されたアスファルト。 まだ小さかった頃を思い出す。 今の自分が思い返せば、何だか自分勝手で、子供だったから……というのはそうなのだけれど、本当に子供だったのだなあ。と思う。 子供っぽいとか、子供のようになんて言葉はあるけれど、大人になった自分はどうやっても本当の意味で " あの頃 " のように、心の底から子供にはなれないのだと思う。 知っている世界も狭くて、わかる事も少なくて。 手のギリギリ届く世界だけで生きるしかなかった。 そんな時代
お前がどこかで笑うなら、私はソレを許さないだろう。 お前があの日を苦笑いで語る事があるならば、許されない事だ。それはお前のせいなのだから。 お前が私から奪ったものを、世界は未だに望んでいる。 だけれども、お前が全てを独占したから、沢山の人々が泣いているのを私だけが知っているんだ。 お前が全てを終わらせたのだから、その責任は必ず降りかかるだろう。 人生とはそういうものだと思うからだ。 お前が笑っていられるのなら、私は血を流し歩みを進めよう。
僕達の住むこの世界の中心……調べるといくつか出てくるけれど、地理の話ではなく、僕が今立っている場所が世界の中心だとして。 君が今いる場所は凄く遠くて。 もし僕が今立っている場所の真反対に君が立っていたのなら……それは僕達の世界の中心って事になるのだろうか? 地球はまるくて、空は繋がっていて、ここは広い宇宙のほんの一部だけれど、それを想像しても良くわからないくらいには僕はこの世界で何をしているのかもわからないんだ。 もしかしたら僕達の住んでいる地球っていう外界には、
あさ目がさめると、きのうのよるごはんのカレーのにおいがする。 ふつかめのカレーはとってもおいしいってぼくはしっているよ。 きょうは雨。ゆめのなかでもかさをさしてた。 まい日かんがえることは 「どうしておなかがすくんだろう?」 ってこと。 でもね、おなかがすくといいこともあるの、ぼくはしってるよ。 ごはんがおいしいってこと!
僕という存在。僕の形。 僕の形はどんなだったかな……ずっと考えているよ。 僕の思う僕の形が頭に描かれていく。鏡を見ても、昔の写真を見返しても、そんな自分が存在しない。 僕が僕の形を忘れかけているのかもしれないし、頭の中で僕が僕を美化してしまっているのか、醜悪に曲げてしまっているのかもしれない。 明日が来て、曲がった現実に気持ちを落とす事があるのかもしれないから、自分をしっかり記録していこう。そして今の自分としっかり向き合っていこう。 なんだかそんな事を思った。
ずっとずっと僕は死にたかった。 いつからだったのかは良く覚えていないし、何なら死にたかったあの頃の " 日常 " の記憶はとても曖昧だ。 毎日がふわふわしていたし、毎日が自暴自棄だったようにも思える。 生きているような、死んでいるような、どちらでもないような。 だからこそ、毎日僕は死にたかったのかもしれない。 そうではないかもしれないけれど。 死にたかった気持ちも、死にたがりな動機も、思い返そうと、思い出そうと、頭の中を潜っていくけれど、最後の最後見えない壁のよ
私の魔法使いになって。 アナタの " Bibbidi-Bobbidi-Boo " で絶望に溺れた私の裸体を神秘的なドレスで包んで欲しい。 つつんで、くるんで、しめあげて。 明日が来るのかわからない。そんな夜をエスコートして。 零時の鐘が鳴ったなら、魔法は解けるのかもしれない。 でも、 " 何が起こっても解けない魔法 " と……今だけ私を錯覚させてくれたらそれで十分だから。 アナタが似非魔法使いだったとしても、私は思い出の中ダンスを踊って、ガラスの靴を落として消え
初めて手首を切ったのはいつだっただろうか。 高校生の頃、それは手首を切ったと言えるレベルではなかったと思う。自室にあった鋏の刃を左手首に当てがい、スッと引いてみた。 きっとそれが最初。薄い引っ掻き傷。血が流れる事もなかったと思う。 でも何だか……安心を覚えたのを思い返せる。 私は自分の命を自分の意思で扱えるんだ。 私の命をお前達の好きにさせたりしないんだ。 そんな事を考えながら、笑った後、静かに泣いた……そんな夕方のオレンジの部屋だった。 手首を切る理由なん
気付けば怨み言…… 日頃の鬱憤や妬み嫉み…… 嫌な感情に呑み込まれて、四方八方を敵に囲まれているような気持ちになる。 私はいつも独りきり。そんな事は一切ないのに、時々そんな気持ちに苛まれる。 気を許せる仲間も友達もいるはずなのに、街の中、雑踏、見つめたアスファルトの一点……滅びろ人類、この世の芥。私もなんら変わりない存在なのに。 私だってふと思う時もあるんだよ。 " ありがとう " なんて気持ちを、ふわりと。 「君に会えて良かったよ。ありがとう」
目に見えている世界が現実……そんな事はわかっているよ。 でもそれが現実だと割り切るには、なんだかとても残酷だと思う日があったりもするんだよ。 息を吸って吐き出して、こうして生きている今現在。目を開いて見るこの景色。別に不満がある訳ではない、空が青く敷き詰められた晴れた日。 でも、この現実が何だか意地悪だな……なんて思う日だってあるんだよ。 目を閉じた時、暗闇で蠢く光を追ってみたり。頭の中で繰り広げられる物語に浸ってみたり。 そんな時間を愛したって良いじゃないか。そ
毒は毒の中へ。 いつからか求めたはずの形は分離して、別のものという形に成り果てた。 君は君のままで、君らしく踊って。私は私のまま、楽しく過ごそうと思うよ。 時間が経てば経つ程に距離は離れていくけれど、その方がきっと素敵な事なのかもしれないな、なんて思ったりもするんだ。 いつか " ひとつ " になれたら……なんて事を願ったりもしたけれど、それはきっと若さ故の願い。 少し遠いくらいが居心地が良かったりもするものなのだ……と今になってわかる。 私が私らしく生きられる
「 」 と叫んで、泣いて、崩れ落ちて…… あれから十一年の月日が流れようとしている。 その間に色々な人達と出会ったし、色々な出来事があった。 怒りもあったし、悲しみも、喪失感も失望も。もちろん辛い事ばかりではなかったけれど、辛い出来事の方が心に深く根付いてしまうものだから。 灰色の空間が彼方此方に蠢いていて、今僕の見ている空は、もしかしたらメガネでフィルターをかけた青い空なのかもしれないな……なんてふと思ったりもするんだ。 いつか訪れる " アレ
僕が終わるのか 音楽が終わるのか 世界が終わるのか いつだっただろうか。そんな事ばかり考えていた日々が続いていた事があった。 死にたい訳じゃないけれど、生きたい訳でもない。そんなぼんやりとした感覚を感じる事は生きていて当然と言うか……僕としては特別な感情にも思えなかった。 陽が落ちて夜が来るように、日常の片隅にそんな時間があるように思える。 ぼんやりとしながらそんな気持ちの中何度も考えたけれど、答えは出なかった。 僕が最初に終わっても、音楽が最初に終わって
黒くてどろどろ。明日はない。 今日が過ぎてゆく感覚。明日はない。 これから起こるであろう沢山の物語は閉ざされてゆく。 それは私が悪いのか、世間が悪いのか。 この世界に落ちた結果がコレであるなら、それは受け入れるしかないのだろう。 ただ私は私の思う愛とかいう曖昧な感情の侭、生きて行きたかっただけなのだけれど。 生きるというのはそう簡単な事じゃないのね。 物心ついた頃からそうだった。思考と行動がちぐはぐで、どうしたら良いかわからなくなったと思ったら、思ったまま突発