第1回Q&A 脚本家になるために
A1. GK
テレビ局が主催しているシナリオコンクール、映画製作者連盟主催の城戸賞などが、脚本家になるための登竜門であることは、今後も変わりないと思います。
ただ、そこでの受賞がすべてではない、とも思います。
例えば。
僕は以前、城戸賞で受賞は逃したものの、候補に残っていた作品がとても気に入り、その脚本家に仕事を頼んだことがあります。
ご本人は「受賞できなかったのに、どうして?」と驚かれていましたが、賞というのは時の運や審査員との相性もあるので、受賞しなくてもチャンスが巡ってくることはあります。
その方は、その後アニメーション業界でヒットを飛ばし、現在ではトップクラスの人気脚本家として活躍されています。
書き手の立場として思うことは、小説家にも脚本家にも「締め切り」が必要だということです。
締め切りがないのに書ける、という書き手に僕は出会ったことがありません(そういう怪物が、たまにいるという噂は聞いたことはあるけど)。
小説家の場合は編集者が、脚本家の場合は監督やプロデューサーが締め切りを設定してくれるわけですが、そうでなければコンクールに「締め切り」を設定してもらうのが良いと思います。
ときどき個人宛に脚本を送付して「読んでください」という方も、いらっしゃるのですが、そういう形でプロになったという方の話はあまり聞きません。申し訳ないのですが、それを読む時間がある現役のクリエイターはほとんどいません。みんな自分の仕事で精一杯だからです。
制作会社で脚本家の見習いをやりながらプロになった人、著名な脚本家や監督の助手として働きながら脚本を書くようになった人なども、もちろんいますので、コンクールがすべてではないとも思います。
僕のそばにいて素晴らしい作品を書いている人、そしてプロとして書き続けている人たちの共通点があります。
彼らは本当に、たくさん読みます。
評判の小説を、受賞した脚本を。過去の名作から最近のベストセラーまで、貪るように読んでいます。
そんなにたくさん読みながら、いつ書いているのだろうと思うくらいです。
そういう先人たちの姿を見るたび、書く前に「読む」ことに、なにかしらのヒントがあるのは間違いないなと思うようになりました。
だから僕はいつも、新人の脚本家、監督、プロデューサーにこう問います。
昨年ヒットしたあの映画の脚本を読みましたか?
今年受賞したあの小説を読みましたか?
向田邦子さんや、倉本聰さん、山田太一さんの脚本を読んでいますか?
面白いと評判のドラマの脚本を、常日頃から読むようにしていますか?
当たり前のことのようで、それらをあまりやらずにプロになりたいという方は意外と多いです。
けれども、その「当たり前」をやることが大変なのだなと、最近思うようになりました。
書き手にとって受賞やデビューはスタート地点でしかありません。そこから生き残っていく才能は、ほんのわずかです。
トップで走り続けている人たちは、本能的に「読む」ことが必要不可欠だと感じています。
だからこそ「量が読める」ということも、ひとつの才能だと僕は思います。
最後に。
僕が30歳の頃、12人の創り手の先輩たちに「仕事」について聞いて回った『仕事。』という対談集から、書くこと、創ることを仕事にする方々のヒントになる言葉を記しておきます。
真似ながら学ぶところから始まり、最後は真似をしないために学ぶ。
『仕事。』において、初回に登場していただいた山田洋次さんの伏線を、最終回の坂本龍一さんが回収してくださいました。
ほかにも、沢木耕太郎さん、宮崎駿さん、倉本聰さんなど、偉大なる書き手たちとの対談もあります。先人たちの言葉は、きっと数々のヒントとなることと思います。
A2. GK
先ほどの脚本家志望の方へのアドバイスの続きのようなことになりますが、
インプット=「読む」「観る」ということができていれば、アウトプット=「書く」「創る」ということの基礎体力があるといえます。
ただ、前提として。
「表現する仕事」をしたい方に、自問してみて欲しいことがあります。