見出し画像

第2回Q&A キャラクターづくりの原則

Q :Junさん(30代)
2年前ゲーム会社に入社して企画の部署にいます。上司に企画書を提出すると「キャラクターが面白くない」とよく言われてしまいます。キャラクターの深みを出す方法(そんな簡単ではないとは思いますが)がもしあれば、アドバイスをいただきたいです。

A :GK
深みのあるキャラクターを簡単に作る方法があります。
「自分」のことを書けばいいのです。

「誰でも一生に一作くらいは小説を書ける」とよく言われますが、自分のことをキャラクター化した小説ならば誰にでも書けるということなのでしょう。

世の中にあるオリジナルストーリー(特にデビュー作)のほとんどが「作者自身」が主人公だともいえます。
そもそも、多くのゲームはプレイヤーが自分を主人公と重ねながらプレイするものです。

「自分」をキャラクターとして描きやすいのは、自分の話は切実だからだともいえます。

けれども自分を描き続けるのには限界があります。
プロとして書き続け、作り続けるためには「自分以外」のキャラクターを発明できるようにならないといけない。

では、どうするか。

小説、漫画、映画、ドラマ、アニメ、ゲーム、さまざまなキャラクターの作り方があると思います。

ですから今回は、僕が考える「キャラクターづくりの原則」のなかから、二つほどお伝えできたらと思います。


一つ目は、そのキャラクターが置かれている状況が「切実」であること。

お金持ちで、家族が仲良しで、仕事も順調な主人公が、YouTubeを始めてみる。
そんな人の話を、観客は見続けようとは思いません。
けれども、その主人公の家族全員が、ある日突然行方不明になってしまったとしたら・・・その行く末は見るに値するでしょう。

ことほど左様に主人公が置かれている状況が「切実」であればあるほど、その物語は魅力的になります。

多くの人にとって一番「切実」な状況は何かと考えると、「死ぬこと」です。

ほとんどのゲームは「死なないように頑張る」ことで成立しています。スーパーマリオもゼルダもドラゴンクエストも、どうやって主人公が死なないように前に進めるか、が前提になっています。

映画や小説のヒット作では、たびたび主人公が余命わずかの病になったり、戦争に送り込まれたり、生き残りをかけたゲームに巻き込まれます。

同じくらい「切実」なことは、「愛したり」「愛されなくなったり」することです。

主人公が初恋にときめいたり、失恋に悶え苦しんだり、恋人の記憶喪失に絶望する。
ラブストーリーが普遍的な理由は、登場人物たちの状況を読者や観客が切実に感じるからです。

「愛した人が死んでいく」
このプロットが不滅なのは、この二つの切実さが掛け合わさっているからなのでしょう。

ですから「切実」であるかどうかは主人公にとって必須条件だといえます。
そして、あまたの物語があるなかで、凡庸な切実さではキャラクターは魅力的になりません。

乗っていた豪華客船が沈んだり、未来から来たサイボーグに命を狙われたり、自分の生徒に娘を殺されたり、ツレがうつになったり、妹が鬼になったり、切実さの発明=キャラクターの発明だといえるでしょう。

大それた設定の、大仰な切実さだけが、面白いとも限りません。

「買い物に行く」ことに切実さは感じないけれど、「ちいさな子供が、初めてひとりで買い物に行く」とするとそれは切実になり得るように(僕は毎回泣いてしまいます)。

そしてその切実さがユニークであればあるほど、キャラクターを魅力的にします。

「唐揚げにレモンを絞るか絞らないかが気になる」という切実さだけで、そのキャラクターを愛せてしまうように。

最近僕は、そういうユニークな切実さをずっと探しているような気がします。


キャラクターづくりの原則。
その2つ目について考えていきましょう。

ここから先は

1,767字

川村元気『物語の部屋』メンバーシップ

¥2,000 / 月
このメンバーシップの詳細