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夢離48.421km 1話

『夢離48.421㎞』


〈登場人物〉
イチグロ カズロウ・・・風俗店受付勤務
キウチ タキオ・・・フリーター


〇渋谷区・某風俗店・店内(夜)
受付で雑誌を読んでいる風俗店受付のイチグロカズロウ(27)。

「ピロピロピロウ」と入店音が鳴る。

客・キウチタキオ(27)入ってくる。

タキオ「あのー、すいませーん…」

店内BGMは寺尾聰さんの『ルビーの指環』

カズロウ、Bluetoothイヤホンをして雑誌を読んでいるので、タキオに気づかない。

タキオ「(反応ないので)すいませーん」

カズロウ、タキオに気づく。イヤホンは外さず、雑誌を見ながら、

カズロウ「禁止事項読んで、女の子決めて。もし名前あれなら番号で言って。あ、2番と14番の子はお休みで3番、8番は埋まってて、13番の子は今終わるとこだから、15 分ほど時間かかる」

タキオ、女の子一覧を見て、

タキオ「…じゃあ9番の…キラキラネーム?」

カズロウ「うち、女の子の名前、全員キラキラネームで付けさせてるから」

タキオ「(硬直)」

カズロウ「誰?」

タキオ「えっと…。じゃあ、キラキラネーム、手を洗うと書いて…手洗(てぃあら) ちゃんで…」

カズロウ、受付から出て、キクチの前に来る。

カズロウ「本番禁止。盗撮禁止。あと手洗ちゃん、新人の子だから強くしないでね」

タキオ「…はい」

カズロウ「付き当たりのトリカブトの絵が張ってある部屋だから」

タキオ、何かに引っかかり動こうとしない 。

カズロウ、それを見て、

カズロウ「あ、トリカブト分からない?葉っぱはヨモギに似てて、花自体は…」

タキオ「カズロウ!?」

カズロウ「は?」

タキオ「カズロウだろ!カズロウイチグロっ!イチグロカズロウ!」

カズロウ「えっ?!…なんで?」

タキオ「おれだよ!おれおれっ!おれだよおれ!!」

カズロウ「ハンバーグだよ」

タキオ「…なにそれ?」

カズロウ「ハンバーグ師匠」

タキオ、長い髪を上げて、顔をよく見せる。

カズロウ「……んんっ!!…タキオ?キウチタキオ?」

キクチ「そう!タキオキウチ!キウチタキオ!!」

カズロウ/タキオ「おおおおーーーーー!!」

タキオ「何してんだよ!」

2人、お互いを察し、呼吸を合わせるように

カズロウ/タキオ「風俗店の受付っ!」

2人、笑ってる。

カズロウ「タキオこそ何やってんだよ!」

2人、またお互いを察し、呼吸を合わせるように

カズロウ/タキオ「フリーター!」

2人、笑っている。

タキオ「よく分かったなーー!」

カズロウ「分かるよ!え、ちょっと、飲み行こうよ!」

タキオ「おおお…。んん、いくかっ!…あっ!手洗ちゃん…」

カズロウ「ああ、手洗ちゃん。でも実際全然キラキラしてないよ。次の客回す時も全く身体洗わないし。手洗うって書くクセに不潔だろ?」

タキオ「でもせっかくだし…」

カズロウ「…じゃあ終わるの待ってるよ。おれもうすぐ上がりだし」

タキオ「おおうっ」

タキオ、緊張の面持ちでトリカブトの部屋へ向かう。
その姿を懐かしそうに見ているカズロウ。

〇都内・実景(深夜)

渋谷駅からNHKホールまでの道のりが映される中、
田口トモロヲさんの声似のナレーターが、

ナレーター「イチグロ・カズロウとキウチ・タキオ。
高校時代に音楽デュオ『病は気から』を結成するも、音楽業界に全くほんとにかすりもせずに解散。
その後、カズロウはノーベル文学賞を目指し作家に。タキオは男性向けの英国風ファッションブランドを立ち上げる。しかし、これも各業界に全く嘘でなくかすりもせず、お互い現在、27歳。
これは、そんな2人が紅白歌合戦・NHKホールを目指すが、あえなく挫折し、金の為に地方やネットの賞金だけは高い雑な企画に手を出し、音楽をないがしろにし、遂には昨今の芸能人のような事件を起こし、逮捕され、話し合い、最後は面会室でデュエットをする、大人気ドラマ『ドクターX』とは全く関係の無い物語」

タイトル『夢離48.421km』が出る。


〇代々木公園・けやき並木通り(早朝)

激安大衆居酒屋帰りのカズロウとタキオ。
通勤中のサラリーマンもチラホラ通る場所で、寝そべっている。
2人の先にはNHKホールが見える。
だいぶ酔っている2人。

カズロウ、耳を澄ましている。

カズロウ「やっぱりな」

タキオ「なに?」

カズロウ「聞こえるわ。波の音が」

タキオ「え?海ないから。ここ代々木公園っ」

カズロウ「ノットイエット。見てみ?聞いてみ?」

タキオ、カズロウのように耳を澄ませる。と…

タキオ「まじ?…何か聴こえてきたっ!」

カズロウ「これが想像力の余白だよー」

2人「おおお!!」と 興奮し合う。

タキオ「…作家ダメだった?」

カズロウ「いや、俺としてはこれ売れるな、賞取れるなって作品は何本か書けたんだけど、 全部パクリだって言われてさ」

タキオ「そうなんだ」

カズロウ「このまえ日本人がノーベル文学賞取ってたじゃん?あれとほとんど同じ内容だったぜ」

タキオ「まじか。ほんといつ作ったじゃなくて、どのタイミングで世に出したかだよな―」

カズロウ「タキオは?自分のファッションブランド?」

タキオ「おれもほぼそんな感じだよ。最後はパクリだって言われて、消滅」

カズロウ「そっかー。お互い、叶わねえな」

タキオ「…まだ実家?どこだっけ?渋谷?」

カズロウ「いやちげーよ!松戸!千葉の!それ別名な!千葉の渋谷は松戸!柏じゃねえからな!」

タキオ「よく分かんねーよ!あ、おれ実家出たから」


カズロウ「まじで!川口の!?」

タキオ「あ、川口からは出てない。川口の実家出て、東川口で一人暮らししてる」

カズロウ「なんだよそれ!実家の近くで1人暮らしするって、それ1人暮らしか!?」

タキオ「家賃もメシも自分でやってるし、確定申告は2月末には終わらせてるし、たまに裁判傍聴するし、その帰りには傍聴者同士で意見交換し合うし、そもそも親と3年近く会ってねえし!」

カズロウ「最後の方全然関係ねえし!ってか親には会ってやれよ!近いんだから!」

タキオ「色々あるんだよ」

沈黙

カズロウ「覚えてる?」

タキオ「何を?」

カズロウ、立ち上がり、一生売れないパントマイムアーティストのような動きをする。

タキオ、それを見て、

タキオ「…当り前だろ」

カズロウ、変なメロディーで歌いだす。

カズロウ
《「愛しい」だなんて言い慣れてないケド 
今なら言えるよ 君のために》

タキオ
《となりで笑って いてくれるのならば 
これ以上他に何も要らないよ》

カズロウ/タキオ
《出逢えたことから全ては始まった 傷つけあう日もあるけれども  
「いっしょにいたい」とそう思えることが 
まだ知らない明日へとつながってゆくよ》

《》は引用:Every Little Thing 『fragile』の歌詞

歌い終わる。(全て本家・Every Little Thingさんの『fragile』と歌詞は全く同じだが、メロディーは異なって歌っている)

達成感のある2人。

カズロウ「…ちゃんと覚えてんじゃん」

タキオ「そりゃそうだろ。俺たちの代表曲だから」

カズロウ「ふらっとJAL乗ればマイル溜めちゃえる」

タキオ「でもこれELTのfragileと全く同じ歌詞で、結局お蔵だもんなー」

タキオ「だからそれもタイミングだよなー」

カズロウ「…タキオさ、またやらね?」

タキオ「えっ? ?…えーーーーー!!」

カズロウ「やろうぜ!!このままの生活続けててもしょうがねえだろ!」

タキオ「いや、そうだけど、また始めたってぜってぇ売れないぜ」

カズロウ「そんなの始めなきゃ分かんないぜ。何かある気がすんだよ!」

タキオ「何があんだよ?」

カズロウ「だって今おれら、出逢った頃のような気持ちじゃん!」

タキオ「ELTみたいに言うなよ!」

カズロウ、ふと立ち上がり、

カズロウ「…これはおれたちの歌詞だぁああ!!!」

といい、タキオを見つめる。

タキオ「…そうだな」

カズロウ「…おう」

タキオ「…じゃあさ、今の仕事、何日で辞める?」

カズロウ「えっ?……そんなの…..。今辞めて、ここで曲作ってやるよ!」

タキオ「(溜息)。……やるかぁーーーーー!!!」

カズロウ「おう!…..決めた!『病は気から』第2章の夢は紅白、NHKホールだ!」

タキオ「第2章ってEXILE TRIBEか。ってか今更紅白とかダセえだろ」

カズロウ「おまえ紅白なめちゃいけない。一気に認知度上がるぜ!巣鴨のじいさんばあさんにまでにも知られるんだぜ!不登校だったクラスメイトからも連絡来るぜ!そしたらライブのチケットバンバン売れて、皆がおれらの音楽を聴いてくれんだよ!そのための夢だ!」

タキオ「…じゃあ、地元のレンタルショップで14年間返し忘れてるホームアローンの延滞料金の請求も来るのかな…?」

カズロウ「…それは来ない!3年以上経てば店側も忘れてる!お客様の勝利だ!安心しろ!」

タキオ「なら決まりだ!」

2人、朝の代々木公園で熱い抱擁をする。

2/3につづく

引用歌詞:Every Little Thing 『fragile』
この物語はフィクションであり、劇中でパクっていると発言していますが、パクっているのは劇中の彼らの方です。


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