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源氏物語の色 4「夕顔」 ~はかなくも美しい、幻のような白~

源氏物語に少しでも触れたことがあれば、「夕顔」と聞くだけで、どきっとしてしまうのではないかと思う。
名前も素性もわからない女性と激しい恋に落ちた光源氏。しかしその女性はもののけに取りつかれ、亡くなる……。
きっと昔の人も、どきどきしながら引き込まれていったに違いない、劇的な恋の物語。


「夕顔」の話に差しかかる頃、光源氏には葵の上という正妻がいたが、仲睦まじいと言える仲ではなかった。
そして、六条御息所という高貴な年上の未亡人女性のもとに通っていたのだが、こちらはこちらで気高くて息がつまりそうと感じるようになっていた。
また、人妻の空蝉のことも忘れられない。忘れられないというより、ふられたことが悔しいのではないかと思ってしまう。

そんな女性たちとの生活を送っていた夏の夕暮れ、乳母の見舞いに行く。
そこで隣家の垣に、青々とした蔓草に白い夕顔の花が咲いているのを目にする。
一枝取ろうとすると、隣家から出てきた少女が、香をたきしめた白い扇を差し出し、白い夕顔の花をのせるようにと言う。

白い夕顔の花に、白い扇。
「夕顔」の帖には「白」が七回出てくる。
この帖を取り巻く色は白だと思う。
しかし、清冽な純白の白というよりは、夕暮れにほのかに浮かんで見える、はかない白。
香をたきしめた扇も、香りが染みついた淡い白。
つかみどころのないような、はかない白が、隣家に住む女性である夕顔という女性を印象づけている。

扇に歌が詠まれていたことから、光源氏はこの隣家の女性…夕顔に惹かれ、身分を隠して通うこととなる。
お互い、名前も明かさない秘密のできごと。
どうしてここまで惹かれてしまうのかわからないけれど、かわいくていとしくてたまらない。
甘えてくるのもいじらしい。
他にも女性がいながら、狂おしいほどの恋わずらいをする。

そして仲秋の満月の翌日、静かなところで二人きりになろうと連れ出し・・・
夕顔はもののけに取りつかれて息を引き取る。

夕顔の衣装描写は「白き袷、薄色のなよよかなるを重ねて・・・」
つまり、白い着物に薄紫の表着を重ねている。
はかない命の夕顔の花そのままではないか。

夕顔の亡骸は、人目につかないようにそっと運び出される。
このとき光源氏の見た情景は、「うちかわしたまへりしわが御紅の御衣の着られたりつるなど・・・」。
当時、寝るときにはお互いの着物を着せあっていたので、夕顔は光源氏の着ていた紅の着物を身につけたままなのである。
白い夕顔が、紅という鮮やかな色で光源氏の前から消えていく。

「夕顔」の帖が印象的なのは、舞台を見ているかのような視覚効果が、その恋物語を盛り上げているのかもしれない。

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