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源氏物語の色 10「賢木」 ~二藍の意味するところ~

「賢木」のあらすじ
―――光源氏の正妻の葵亡き後、六条御息所は光源氏を忘れるために、娘とともに伊勢へ下向することを決意する。
光源氏は、生霊となって取りついた六条御息所を疎み遠ざけていたはずなのに、いざ伊勢という遠い地へ行くとなると会いたくなり、一夜を過ごす。しかし、六条御息所は伊勢へ下向していく。
光源氏の父である桐壺院は病により崩御し、中宮の藤壺は、皇子を守るためにも自ら出家の道を選ぶ。
もちろん、光源氏は藤壺に対する想いをあきらめきれずにいる。
そのような状況の中でも、「花の宴」で知り合った朧月夜の君とは逢瀬を続ける―――

このように、この「賢木」の帖でも光源氏の女性遍歴ぶりが披露されているのだが、実は、栄華ももはやこれまでかという伏線が最後に張られている。
それが、朧月夜との逢瀬。

朧月夜は、右大臣の娘。左大臣派である光源氏の反対勢力の娘、ととらえるとわかりやすいと思う。本来ならば朱雀帝のもとへと行くはずが、「花の宴」での光源氏との過ちのためにそれが破談となったことを右大臣は忘れてはいない。

光源氏と朧月夜の密会の夜。
雷鳴とどろき、周囲が騒ぎ始めたために光源氏は帰りそびれる。
右大臣は娘を心配し、朧月夜の部屋に来る。

朧月夜は驚いたでしょうね。父親が来たことが分かり、
「いとわびしうおぼされて、やをらいざり出でたまふに、面のいたう赤みたるを……」((朧月夜が)とても困りながらそっとにじり出てくると、その顔は赤らんでいるではありませんか……)
この描写、色っぽいですね。「顔が赤い」というだけで、それまでの光源氏とのことや父親に見つかってしまった気まずさなどがうかがえます。

さらに、この時の朧月夜の様子は、
「薄二藍なる帯の、御衣にまつはれて引き出でたるを……」(薄い二藍色の帯が、朧月夜の御衣にまとわりついて……)

二藍色(ややくすんだ青紫)の帯がまとわりついていたのです。
この時代、色には意味があるのです。二藍色の帯の持ち主と言えば、あの若者……。
右大臣が中をのぞくと、臆面もなく横たわっている光源氏がいるのです。
父である右大臣の心境やいかに……。

これがもとで、光源氏は須磨へ追いやられるということになるのですが、二藍色の帯が重要な役割を果たしているこの場面、色彩に携わっているものとしては名場面の一つにしたいところです。

ちなみに「二藍」とは、「二種類の藍」からきています。
今でも使われる藍染の「藍」と、「紅=くれのあい(呉の藍)」の「藍」。
青い染料の藍と、赤い染料の紅を掛け合わせて染めた色という意味。
この時代、特有の色名のようです。

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