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源氏物語の色 16「関屋」 ~紅葉の色々こきまぜて~

「関屋」のあらすじ
ーーー須磨から帰京した光源氏は、内大臣に出世した。一度失脚したにもかかわらず返り咲いた喜びを表すように、光源氏はお礼参りとして、あちこちの社寺へ詣でる。今回、向かった先は石山寺。その道中である逢坂の関で、かつて恋した人妻、空蝉とすれ違うーーー

「関屋」には具体的な色名での表現はないのだが、晩秋の紅葉に加え、空蝉たちの衣裳の様子、さらには光源氏一行の旅姿が描写され、きらめくような一瞬が切り取られている。

常陸の介に任じられた夫とともに常陸へ下向していた空蝉は、夫の任期が終わり京都へ戻るところであった。
転勤先から元の自宅へ一家で帰る……という感覚だが、事実上、常陸の介とは常陸の国のトップであり、かなりの勢力。常陸の介一行の車は多く、華やかに京を目指していた。そして京を目前にした逢坂の関で、光源氏の石山詣の一行が来ると知らされる。人々は道を空けるために、木陰などに身を寄せた。

しかし空蝉主従の乗る多くの車からは、女性たちの衣裳の色合いが見えている。これには光源氏の一行も目の保養。
「車十ばかりぞ、袖口、ものの色あひなども漏り出でて見えたる、田舎びず、よしありて」
明確な色の記述こそないものの、かさねの色合いの美しい衣装は、田舎くさくなく趣味がいいとある。当時の女性たちが物見などの折に、競って車から華麗な衣装を見せびらかせていたのと同じような光景が浮かんでくる。

さらに周囲の山々は「紅葉の色々こきまぜ……むらむらをかしうみえわたる」という情景。紅葉が進んで、濃く薄くきれいに色づいている風景が広がっている。

やってきた光源氏の石山詣の一行の様子はというと「色々の襖のつきづきしき縫物、括り染めのさまも……」
こちらも色とりどりの一行なのである。

聖徳太子の定めた「冠位十二階の制」から始まったとされる位階の色。光源氏の時代も位階によって襖の色は決められていた。内大臣である光源氏が身に着けるのは、淡い紫。さらに、位が下がるにつれ、緋(紅)、緑、縹(藍)と続く。それぞれ濃淡の二色。また、縫物とは刺繍のことであり、括り染めとは今でいう絞り染め。山の紅葉にも負けぬほどの華やかな一行であった様子がうかがえる。

さて、すれ違った光源氏と空蝉。お互いに忘れられなかったことを歌に詠む。華やかな光景に隠れた、十年ぶりに「逢坂の関」で出逢ったふたりのはかなさ。ごく短い帖の「関屋」が印象的なのも、このあたりにあるのかもしれない。

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