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映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記④ ~それは25年前のデジャヴだった

辣腕プロデューサーのひと言

「森山大道の映画作って世界で公開しましょう。
あ・な・た、が撮るんですよ。」

決まってるでしょ、そんなこと!
と言わんばかりの杉田プロデューサーは
続けてサラッとこんなことを言い放つのです。
その一言を聞いて
僕は眩暈どころか気を失いそうになるのでした。

「あ、でも、
大道さんをあなたが口説いてきたならね。
話はそれからです。
う~ん…でも大道さん、本当に受けるかな。
どうなんでしょう。
ま、岩間さん次第ですかね。
あはは、頑張ってください。」

さすがに数々の修羅場を潜り抜けてきた
辣腕のプロデューサーは違います。
「世界公開の大道映画、監督はあなた」という
すさまじい企画の扉を開けて
こちらを震え上がらせた挙句、
頑張って口説いてこい、
フレーフレーというわけです。

あんた今、そんな根性ある?

僕が気を失いそうになるのには訳があります。

近年、映画の話が持ち上がっても
結果的には大道さんは受けなかったらしい…
と風の噂で耳にしていたからです。

大道さん、
今さら映画なんて受けてくれるのかな…。
しかも僕が持っていく企画で…。

一年前のトークイベントで
「ま、その時はまたどうぞよろしく」
と言った大道さんは、
「(今のあなたにオレが撮れるのか?)」という
問いかけと挑発を僕に投げかけているわけです。
逆に言えば、「(今、そんな根性ある?)」と。

僕は、覚悟を決めないといけません。
中途半端な気持ちで
大道さんを口説けるわけがない。
自分で自分に思わず問いました。
あんた今、そんな根性ある?

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さて、困った。
どう腹を括ろう。
どう覚悟を決めよう。
そして…
どうやって大道さんに話を持っていこう。
百歩譲って先日の大道さんの言葉が
半分本当だったとしても、
それはせいぜいテレビ番組の話程度
としか思っていないだろう。
まさか映画
しかもそれが世界規模のものだなんて、
これっぽっちも思っていないはずだ。
心臓の鼓動が早くなってきました。

25年前のデジャヴ

「じゃ、岩間さん。
森山大道さんを頑張って口説いてきてください。
話はそれからです、では。」

そう言い放って笑顔で爽やかに席を立った
杉田プロデューサーの不敵な後姿を眺めながら、
僕は不思議な感覚に包まれていました。

あれ?
この言葉、20数年前にも聞いたことあるぞ。
まったく同じフレーズを聞いたぞ。
「森山大道さんを口説いてきて。
話はそれからです。」
あれれ?
どこでだ?
どこで聞いた?
…テレビ局の制作フロアの片隅で、だ。
その時、僕は20代だった。

まもなく定年になる
ベテランプロデューサーが、
駆け出しのテレビディレクターだった僕に
こう言ったのでした。

「じゃ、岩間君。
森山大道さんを自分で口説いてきてください。
話はそれからだよ。」

その一言に、
僕は今まで感じたことのないプレッシャーと
とてつもない希望を感じて、
全身の血が沸騰するような
そんな気持ちになったのです。

あの時と同じだ。
同じフレーズだ。
デジャヴだ。

それは1995年のことでした。
今からちょうど25年前。

森山大道さんとの出会いが、
青二才の僕を待っていました。

そして、その出会いによって
僕の運命は大きく変わるのです。

つづく






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