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映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家・森山大道」監督日記⑫ ~1995年の森山大道スナップ現場

まるでタイムスリップ

2018年1月。
20数年ぶりに目の当たりにする
大道さんのスナップワーク。
それはかつて僕が目撃したものと
まったく変わっていませんでした。

歩いてパシャリ、
立ち止まってパシャリ、
また歩きだしてパシャリ。

1995年に僕が目撃したのとまったく同じ。
まるで…
タイムスリップしてしまったかのようです。

1995年の森山大道

1995年秋。
初対面の大道さんに
「あなたのドキュメンタリー番組を
撮らせてください」と頼み込んだ
20代の正体不明のディレクター。
そんな失礼千万の僕に、
大道さんは苦笑いしながら言ったのでした。

「僕はテレビ向きじゃないですから。
まぁまぁ、しかし…
そんなに肩に力を入れずに、
一度遊びにいらっしゃい」

断るつもりだった大道さん。
でも即答で断るのも
かわいそうだと思ってくれたのか…
何と自宅に遊びにおいでと仰るのでした。

僕は恐れ多くも…
本当に大道さんの自宅に足を運んだのです。
25年前当時、それは四谷三丁目にありました。
洒落た小料理屋さんが立ち並ぶ
その一角に大道さんは暮らしていました。

「遊びにおいでと仰るので
本当に遊びに来ました!」
そう言う僕を迎え入れて、
大道さんは微笑みながら言うのでした。

「あなたはお酒は飲めるの?
ま、少し飲みませんか」

こうして僕は、
それ以降何度となく
大道さんの自宅に足を運び、
お酒をご馳走になったり
珈琲をご馳走になって
あれやこれやといろいろなお話を
聞かせて頂いたのです。

新宿スナップ…一緒に来る?

そんなある日の午後、
唐突に大道さんが言い出したのです。

「僕、今から
新宿をスナップしに行くけれど…」

え?

「…ま、もしよかったら、一緒に来る?」

ええ?

「そして、まぁ、何だったら…
その様子、撮影しますか?」

ええええ!!!!
僕は当時、仕事柄
ビデオカメラだけは持ち歩いていました。
「は、は、はい!喜んで、
同行させていただきます!!」

四谷三丁目から新宿まで歩いて出かけました。
そして僕は大緊張・大興奮・大感動しながら
大道さんの後ろをくっついて回ります。
そして新宿歌舞伎町。
スナップを開始する大道さんを撮影しようと
僕は震える手で
ビデオカメラのスイッチを押したのでした。

当時の大道さんの愛機は
黒のオリンパスμ(ミュー)。
コートのポケットにすっぽり収まるサイズの
小さな小さなフィルムコンパクトカメラです。

「へぇ~!噂には聞いていたけれど
本当にこんなコンパクトカメラで撮るんだ!」

そのオリンパスμをポケットから取り出すと
大道さんは歌舞伎町のありとあらゆるものを
ものすごい勢いで撮り始めたのです。

スナックの看板
クラブの店構え
ショーウィンドウのマネキン
駐輪中の自転車の列
映画館のポスター
風俗店のネオン
交差点の信号
行きかう人々
過ぎ去る車

おおおお、これが…
これが森山大道のスナップワークか!

のけぞるほど感動する僕をよそに
大道さんのスナップは加速していきます。
まるで街とシンクロしていくように。

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加速する大道スナップ1995

大道さんは歩く速度も速くなり、
次々とシャッターを切っていきます。

雑居ビルの階段
電線に止まったカラス
サンドイッチマン
キャバクラの入り口
ホストクラブの壁
路地裏のバー
建物の陰でうずくまる野良猫
路上で煙草を吸う男
ハイヒールの靴音を響かせる女

ものすごい勢いでスナップを重ねる大道さん。
その手元のオリンパスμが
突然「カチッ、ウッウィーーーーーーン」と
フィルムを巻き上げます。
あっという間に一本撮り終えたのです。
(昔のコンパクトカメラは撮り終えると
オートでフィルムを巻き戻したのです)

大道さんは
カメラを入れていたポケットとは
反対側のポケットから
KodakのトライXという白黒フィルムを取り出し、
あっという間にカメラに詰め替えます。

そしてさらに早足になって
街の奥深くへズンズン入っていっては
またあっという間に一本撮り終えるのです。
当時のフィルムは、最大で36枚。
36枚なんて、大道さんからすると
100メートルも歩いたら
あっという間に撮り終える量だったのです。

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すごい。
このスピードとこの量。
このエネルギー。
そしてこの欲望。

とんでもない秘密を
目撃しているような気持ちがしました。
この時の模様は、のちに
大道さん初の密着ドキュメンタリー
「路上の犬は何を見たか?
写真家・森山大道1996」
というテレビ番組の映像素材になったのでした。

そしてその映像が、
さらに25年後
映画の素材として
再び日の目を見る日が来るなんて…
当時の僕も大道さんも
もちろん知る由もありませんでした。

四半世紀後
2018年正月
かつてと全く変わらない大道さんのスナップ姿に
僕は感動していました。
この人は、
どうしてこんなに変わらないんだろう、と。

(写真:本編映像より。1995年当時のスナップ風景)


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