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シリーズ:ノルウェー人に聞いてみた⑤~ノルウェーってジェンダー平等ですか?~Yさんの場合

今回のお相手は・・・・

Yさんはノルウェー在住20年以上の現役日本人ピアニストです。約20年前にノルウェーにピアノ留学されました。現在はノルウェー人の旦那様(ヴィオラ奏者)と17歳の娘さんとの3人暮らしです。オペラ座のバレエ伴奏ピアニストと音楽学校でのお仕事を両立されています。

どういう働き方をしていますか?

オペラ座の仕事を80%、音楽学校の仕事を40%の計120%で働いています。120%なので忙しいといえば忙しいですが、自分で選んでやっていることなので充実しています。ノルウェーでは、働き方の配分を上司と合意さえすれば自由に決められます。「40%ならパート・バイト」ということはなく、あくまでも正規雇用で40%、80%なのです。そのおかげで、2つの場所で違うスキルや経験を得られています。

ただ、現在は五十肩を患っており、仕事をセーブしています。ノルウェーはとても福利厚生に手厚い国なので、医師の診断書があれば1年を上限に国からお給料が100%支給されます。1年経過後も、4年間は仕事復帰に向けての取り組みをしていれば、国から経済的支援が得られます。なので、現在は上司の許可を得て、体調に合わせて勤務時間を調整している段階です。月ごとに働いた時間×時給を会社から受け取り、不足分は国から得られます。

先のことまで考えて留学先をノルウェーにした訳ではないのですが結果的にノルウェーで良かったと思います。他の国ではここまでの手厚い支援は受けられなかったと思います。

仕事と家庭の両立はどのようにされていますか?

うちも基本的には夫と半々のスタイルです。当たり前に夫は家事をしますし、子育てもします。「そのとき時間があるほうがやる」スタンスで取り組んできました。ノルウェー人の男性の大半は「妻にも働いてほしい」と思っています。経済的なことを考えるとそれがベストだと考えているからです。もう15年以上前になりますが、もちろんパパ育休もフルの10週間で取得しました。

1番大変だったのは、産後の復帰です。2008年当時はまだノルウェーも保育園の100%入所ができない時代でした。残念ながら待機児童になってしまった娘。それでも実力勝負のピアニストという職業柄、なるべく早く復帰したかったので、やむを得ず子供同伴で復帰しました。夫と職場が同じなので、交代で子供を見つつ、演奏するてんやわんやな日々。復帰して数か月後に保育園に空きが出てホッとしましたが、夫婦ともに夜のコンサートの仕事が入ることもあったので、そういうときは祖父や友人に預けるなどして乗り切っていました。

そのとき純粋に思いました。子供がいない人は自分のことに100%集中できる環境があっていいなと。実力主義の世界では特にパフォーマンスについてシビアですので、夜泣きをしようが、イヤイヤ期だろうがお構いなしです。そのプレッシャーを常に抱えて演奏するのはなかなかハードでした。

子供がいて大変だから楽な仕事に回されるということは無く、出産前と同じ責任ある仕事を高いレベルで求められます。平等だからこそ、逆に厳しいと感じることもあったのは事実です。

どんな職場ですか?

とても働きやすい職場です。ジェンダーレスでボーダレスな職場だと思います。性別や国籍を意識することなく、個人が尊重されている感覚があります。私が所属するピアニストグループは男女半々ですし、国籍もバラバラ。共通言語は英語です。

とてもフラットな組織で、上司は下の意見を尊重してくれます。トップダウンで指示が下りてくるのではなく、ボトムアップで下から意見をくみ取って、合意形成していくスタイルなのでとても居心地がいいです。上司との個人面談では上司に対する評価も聞かれます。

でも言わないと聞いてくれないし、日本人のように察してはくれないので、自分の意見を持つことやそれを発信することが求められます。

そしてフットワークもとても軽いです。新しい意見が出てみんなで合意ができたら、一回やってみよう!と前向きに取り組みます。ノルウェー政府自体がそんな感じなので、制度をがらっと変えることを臆さないです。とりあえずやってみて、やりながら考える。うまくいかなければやめればいい、そういう社会的実験を繰り返し今があるのかなと。

女性という理由で差別をされたり、不利だと思ったことは?

特にありません。

むしろ、この国は女性が強いなと感じます。男性よりも女性のほうがはっきり物事を述べるように思います。

それは学校教育も影響している気がします。こちらの学校は成績に不服があれば先生にクレームを出して話し合いの場を持つことができます。先生と生徒の関係もフラットなのです。先生=偉い=目上の人、生徒=従う人という関係性ではないのです。

うちの娘も先日、英語の成績に納得ができず先生にクレームを出しました。すると、話し合いの場で先生がレポートの読み忘れをしていたことが発覚し、先生が平謝り。結果、納得のいく成績を得ることができました。

ノルウェーは男女平等の国だと思いますか?

はい、思います。育休、労働時間、家事分担は平等ですし、女は、母はこうあるべき!という圧力もありません。老若男女自由な生き方を選択できると思います。

ジェンダーという意味では、同性婚も社会的にオープンですし、認められています。各国での同性愛の受け止め方と男女差別は同レベルにある気がします。性別や国籍に囚われなくなると全ての人が自由に楽に生きていけるのではないでしょうか。

聞いて思ったこと・・・

ジェンダー教育とは「立場に関係なく当たり前に自分の意見を持ち、それを発信すること」なのかもしれないと思いました。イコール民主主義教育ともいえるかもしれません。

男性でも女性でも、日本人でも外国人でも、大人でも子供でも一人の人間として「あなたはどう思うのか」「どう感じているのか」を当たり前に発言し、それを受け止め、話し合いを重ねてお互いの理解を深めていくこと。そういった真の民主主義の在り方がジェンダー平等の礎になるのではないかと思いました。

日本は家父長制や年功序列が色濃く残る社会ですし、「空気を読む」「察する」「出る杭打たれる」文化でもあり、学校教育自体もいまだ昭和のままです(詰め込み暗記型)。民主主義国家とはいえ、政治家の大半は男性です。「誰もが自分の意見を持ち、発信する、話し合いを重ねる」ために乗り越えるべきハードルはかなり高いと感じています。

でも、日本人、男性、大人中心の価値観だけで進む同質社会の時代は終わりを迎えているのではないでしょうか。

「同じ」ではなく「違う」ことを前提にした社会のあり方に変わっていく必要があると感じます。

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