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#2 なぜ、今ジェンダーニュートラル言語が注目されるのでしょうか?

私たちは英語教育の世界に20年以上身を置いています。そして、アメリカと日本の大学での教授経験から、自分達の経験がどのように日本の英語教育に貢献できるか、を考えてきました。同時に、個人レベルや研究会などの小さなグループ単位でできることを小さなことからコツコツと実践してきました。

その中で一つ気になることは、自分達にも当てはまりますが、英語を生業とする人々も含めて、多くの日本人が世界の潮流から取り残されている、と感じることが多々あるということです。

多くの日本人がグローバル社会の中では当然と見なされることに気づいていないことが多いのは、なぜでしょうか?それは、日常生活で英語に触れる機会がある人々は限られており、一般的にはメディアによって日本語で伝えられる、スクリーニングされた情報だけが情報源になっているからではないか、と考えることができます。

今、国家を跨ぎ、文化を跨いだ、グローバル社会では、多様性への理解とインクルーシブな協働がキーワードの一つです。

「多様性」という言葉は様々な分野で聞く言葉となり「みんな違ってそれでいい」というようなフレーズは耳に馴染んできました。

「多様性」のひとつに、ジェンダーに対する多様性が含まれます。従来型の女性と男性の二元性ジェンダーの間でギャップを埋めていく作業が言語面から取り組まれてきました。そして、21世紀の現在は、従来の二元性で表現するジェンダー以外の多様性を認識し、受け入れ、表現するようになっています。これまで使われてきた言語に工夫を加え、多様な人々を含むために今、ジェンダーニュートラルランゲージが注目されているのです。

私たちは、「多様性理解」を単に頭で考える次元で終わらせずに教育の中に取り込み、理解したことを言語で表現できる人材育成を考えてきました。これは私たちはサンフランシスコという多様性を受け入れるコミュニティーで大学院時代を過ごし、多様性の中に浸かって過ごした日々の中で個々の人々を尊重するコミュニケーションスタイルに触れ、その素晴らしさと重要さを身をもって学んだ背景から来ています。(詳細はまた別途執筆します。)多様性理解のうち、特に時代を通して重要かつ、常に世界的な問題として取り上げられているのがジェンダーです。私たちはこのジェンダーと言語に焦点を当てたワークショップを開催しています。

社会言語学の分野では、社会的価値観と言語には密接な関係があり、お互い影響を及ぼしあっていることが指摘されてきました。社会の変化、社会を構成する人々のニーズの変化により、言語は変化していきます。それまで使われていた言語が不適切と見做されて使用されなくなっていったり、新しい語が創り出されたりします。例えば、1960年代以降、米国で始まったウーマンリブ運動と並行して起こったジェンダーの平等を訴える英語言語改革は、伝統的な二元性による女性と男性の格差を埋めようとするものでした。英語で名前を表記する際、Mr. Mrs. Miss(博士号を持つ人は男女ともにDr.)の3種の敬称が主に使われてきたことに対して、女性のみ結婚の有無が言語化されるのは不平等である、という考えからMs.の使用が始まりました。その後も男女ともに対象とするにもかかわらず男性を表すmanが単語の中に入っている語(例:chairman, policeman)はmanを取ることで中性化する取り組み(例:chair, police officer)や男女別々の単語が課されている場合(例:stewardess/steward, waiter/waitress)語を統合するが動きが見られました(flight/cabin attendant, waiter/server)。

これまで、ジェンダーといえば女性の不利な立場を支援することが主な目的でしたが、2020年代初頭現在では、ジェンダーのあり方は従来の二元性を前提としない多様性を含む考え方へと移行しています。例えば、そこで登場している敬称は Mx.(ミックス、ミンクス、エムエックスと発音の仕方は定まっていません)です。また、長年定型として使われてきた三人称代名詞she, he, itにtheyが主要辞書に追加されています。性別のわからない相手や敢えて性別を明記しない意図で使われる既存のSingular They(三人称単数のThey)とは区別して、既知の相手に対し、ジェンダーのノンバイナリーを表すために使われる三人称単数のtheyが登場・定着しはじめました。

このような言語の変化について、日本で生活している私たちはどの程度把握しているのでしょうか?

私たちは、この社会のニーズに伴った言語の変化を掴み、それを使える人材であることがグローバル人材として重要だと考えています。

ジェンダー ランゲージ ワークショップでは、日本にはまだ届いていないけれどもグローバル社会では新しい常識・素養となりつつある、新しいコミュニケーションスタイルや語彙表現の選択についてお伝えし、社会のニーズとともに変化する言語についての理解を深めることをお手伝いします。

                          (文責:小塚)


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