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152_Shakkazombie「HERO THE S.Z.」

(前回の続き)

俺はAさんにどうやったら、お金を稼いでお金持ちになれるか聞いてみる。
「まあとりあえず、株やなくても、会社起こて一発当てりゃ、ええがな」
「そんなAさんみたいに、簡単にできるようやったら苦労しませんわ」
「俺がジブンの年やったら、もう会社で一億は利益の年間で出とったで」
「そんなん僕がやって、倒産したらどうすんですか」
「会社なんか、俺も何回も潰してきたもん」
「いやだから、会社起こすのは別にしてですね、株とかそういうのんで安全に資産増やす方法を教えてくださいよ」
「お前なあ。まあまあ、ええわ、しゃーない、丁寧に教えたる」

俺に対して、口ではイヤイヤ言いながらも、そういうAさんの顔はどう見ても嬉しそうだった。Aさんから教えてもらう話はわかりやすくて、本当にためになる。いわゆる学校では教えてもらえない生きるための知恵というのに似ていた。

「結局はな、株は規模の世界や」
「規模?」
「種銭のでかい奴が勝つっつーこっちゃ。金持ってる奴が益々儲かる仕組みになってるってことやねん。例えばな、一億円持ってる奴がまあまあ利回り5%そこそこで運用したらそれだけで500万やろ、でも100万円持ってるやつが五倍にして500万円にする株の運用をしようと思ったら、結局それはもうとんでもないリスクとったギャンブルにしかならん」
「でも、100万円を5倍にしようと思ったらできるんでしょ?」
「運のいい時は一回くらい勝てるかもしらん。でもな、それで絶対に勝ち続けられる奴はおらん。種銭100万円で一億円までずっと勝ち続けられるなんて、そら本当に一握りの天才だけや。100万円を失った上でそれ以上に損失も負うくらいのリスクを取ったやつだけが、なんとかギリギリ手に入れられるもんや」
「うーん」
「まあお前に取っちゃ、100万円とかも大金やろ。そんなんばっかりやってられへんやろな」
「そらもう、大金ですよ。なら、種銭なくて、どないしたらいいんですか。ギャンブルで勝つ自信ないです」
「そんなことを言うと思っとったわ。要は、早くアガろうとするんやったら、リスク取らなあかんから、結局はギャンブルになるってことやからな。お前が会社も辞めん、事業も起こさんで、金持ちになりたいんやったら、長期分散投資でもせなあかんわな」
「長期でじっくりやれってことですね?」
「そうや、お金は時間の味方や。若い頃にコツコツでも積み立てとけば、後々から複利が利いてきて、結構な額になってくれる」
「その方が自分に向いてる気がします」
「ただな、言うとくけど、それやと俺みたいに早くアガられへんで。ゆっくり金持ちになりたいっていうんじゃ、結局、金使おう思った時にはすでにじじいになっとって、体痛くてどこにも行かれへん、入れ歯になってもうてうまいものも食えへん、みたいになっとるってゆーことや」
「そんな、じゃあ、どないしたらいいですか」
僕は困り果ててAさんに声を漏らした。やっぱりうまい話はない、ってことなのだろうか。

Aさんは立派な家のソファーに快適に身を沈めながら、口のはしに笑みをこぼしながら、僕に身振り手振りで教えてくれる。
「だからな、長期運用やるのも時間かかりすぎるから、ある程度は一発狙うっていうのスタンスも、俺は否定はせん。事業も似たような側面あるからな。リスクとリターンは表裏一体やねん。でも俺が最初に一番言いたいのは、株とか資産運用の話をするときにはな、まず自分がどんな車に乗ってどんなところに行くつもりなのかをきちんとわかっとけ、ゆーことやねん」
Aさんは車好きなので、よくお金の話も車の例え話を織り交ぜてくれる。(もちろん高級車を何台も持っている)僕は車には興味はないので、それがイメージしやすいかは別にして。

「車ですか」
「まだよーわからんって顔してんな。まあ車ってもやな、つまりやな、フェラーリやったら、めちゃめちゃ速く走れるっつーのも大事やけど、運転するのも大変やろ。まあFITやったらそこは問題ないわな。ただかかる時間は別にして、フェラーリやろうがFITやろうが、着くとこは一緒のはずや。その車で向かう自分の目的地が一体どこなのかを忘れんといてくれ、っつーこっちゃ」
「どこに向かうか、ですか?」
「そう、自分が決めた目的地、つまりゴールに辿り着ければ、結局はそれはどちらでもええんちゃうんか?その道は、絶対にフェラーリで行かなあかんとこか?FITやと絶対にたどり着かん場所か?」
「はあ」
「早く辿り着きたいなら、危なかっしい運転でもフェラーリ乗るのの手やけど、FITでノロノロ行ってて、いつか着く場所やったらそれでもええはずやろ?それは何のために、いつまでにその場所に着かなあかんで、決まるんやろ」

「自分が何にお金を使うのについてきちんと目的を持って、お金を貯めるかってことを言ってるんですね」
「せや、稼いだり貯めたりするお金の量はよく比較されるけどな、何にお金を使うかってことは、こればっかりは他人と比較しても仕方ない。そもそも他人と走ってる道がちがうんやしな。隣で走っている車の方が速くてええ車やなって思うかもしれへんけど、並走してるように見えて、実は違う目的地に向かっていることに、気づくかもしれん。いずれにせよ、自分の道に集中しろっちゅーこっちゃ」
「Aさんは何にお金を使ってるんですか」

「そりゃ、お前、自由や」
「自由?」
「誰も言うこと聞かんって済む、いうのは俺にとって最高の幸せや。好きなとこ行って、好きな時間を使って、好きなもん食える。俺はそれに金使うとる。そのために金を稼いできたんや」
「自由にしてますわな」
「まあ結局、自由にしたかて、俺の舌はバカやから食べもんはお好み焼きでええし、センスもないから服もユニクロ着といたらええと思ってる。車も何台も持っといても一度に運転できるのは1台だけや。面倒みるのも奥さんと犬しかおらん。でも、自由だけは絶対に他に代えられへん。どうしても俺は自由が欲しかった。だからお金で俺の自由を買ってん」
「自由ってそんな大切なんですか」
「せや、それは俺にとってはな。だから、若い時からそらもう最速でお金をめっちゃくちゃ稼いできて、今は十分自由になったから、あとはもう稼がんでもええわ、ってなってん」
Aさんはビールを飲み干して、ジョッキをテーブルに置いた。
「あとはこうやって、お前みたいな右も左もわからん人間を、酒飲みながら騙くらかすのがせめてもの楽しみやがな」
「騙くらかしてんすか」
「まあ、冗談やがな」
Aさんが喋り通しだったので、少し間を置いた。夜は静かな空気を纏っている。

「んでや、お前はお金を稼いで、結局、何が欲しいんや?話はそれからや」
何が欲しい?俺は金を稼いで、一体何が欲しいんだろう。一体何にお金を使うっていうんだろう。
Aさんは相変わらず、僕の困った顔を見てニヤニヤしていた。


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