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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ) 番外編:天馬計画、暗号名『黒鉄の翼』

「聖子君、一生懸命何をやってるんだ?」
 俺はいつになく一生懸命パソコンに向かっている風祭かざまつり聖子女史に聞いてみた。

「『天馬計画』…例の『黒鉄くろがねの翼』です。」
聖子がそう答えた。

「ふうん… いよいよ出来たのか?」
俺はコーヒーを飲みながら、聖子の興奮して輝いている顔を見た。

「はい、アメリカの兵器産業『トライデント重工』の友人に発注していた本体は先日、東京湾に貨物船から陸揚げされてこの『wind festivalかざまつり』ビルまで運び込まれました。
現在、当ビルの最上階にて専任スタッフにより整備と調整中です。
 私が今行なっているのは、搭載コンピューターに組み込むための完全自立型人工知能である『スペードエース』の調整です。」

 聖子はパソコンに入力する手を止める事なく俺に答えている。まあ、彼女になら可能だろう。何しろ風祭かざまつり聖子と言えば、現在は大金持ちの未亡人でありながら、過去においてはMIT(マサチューセッツ工科大学)の大学院までを首席で卒業しており、MITに在籍中に電子工学および情報工学に加えて機械工学と、三つの工学部門でそれぞれの博士号を取得した権威けんいでもあったのだ。

 自分の知識と技術を駆使くしして発明や開発を行い、日米で様々な特許を取得をしているスーパーウーマンでもある。
 そして、彼女の隠された裏の顔は電脳世界を好きなように操れるスーパーハッカーでもあった。

もう、俺には何が何だか理解出来ず…訳が分からない女性だった。
 何でこんな物すごい女性が俺の事務所唯一の職員であり、俺の秘書をつとめてくれているのかさっぱり分からなかった。

さっぱり分からないと言えば…
「聖子君、あんなもの飛ばしてどうするんだ?」

俺の質問に、聖子がきつい顔でこちらを見返して言った。
「所長がこの仕事を続けている以上、必ず役に立つ時が来ます。
 所長はいつも首の皮一枚で命がつながっているだけっていう仕事ばっかりしてるじゃないですか! 私に心配ばっかりかけて!」

 聖子はああ言っているが、彼女も俺の仕事を一緒になって楽しんでいるんだ。
 俺は知ってるぞ、聖子が危険の多い依頼を好んで引き受けているっていう事を… 俺がいつも命がけなのは彼女のせいじゃないか…

「何をブツブツ言ってるんですか、所長⁉
 アレを作った老ドリームチームの面々の夢を私達でかなえるんです! 私は絶対にこの計画をやり通して見せます。どんな犠牲を払っても!
所長も協力して下さい!」
大声で言いながら興奮した聖子の目がキラキラと輝いていた。

『君の夢なんだろう…? 俺は別に… それに犠牲って何だよ? 誰が犠牲になるのさ…?』
なんて今の聖子に言ったら殺されるな… 絶対に。
満月じゃない日に言うのは止めとこう…

まあ、俺も興味が無いわけではないが…

 とにかく、あんなモノに彼女がどれだけの莫大な金をつぎ込んだかと思うと俺はゾッとするんだ。
ただの金持ちの未亡人の道楽じゃないのか…?
あの『天馬計画』…彼女の言うところの暗号名コードネーム黒鉄くろがねの翼』は…


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