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帰国前に片付けなければならない作業を七カ月前くらいから羅列して今日に至るわけであるが、…
先週の金曜日の事である。掃除を進める終業間際の工房に一人見知らぬ男の訪問があった。見知…
一年の内で最も好きな時期は年末年始、詳しくは年越の瞬間である。精神の浄化、とは稍訝しく…
八年前、ドイツのパン屋で働き始めた時、職場には既に一人日本人の先輩がいた。名も性別も伏…
世の中には何処にでも狂しな者がいるものである。景色の良い秘境にも飯の美味い街にも治安の…
今週から出勤時間が一時間遅らされた都合で目を覚ますのもそれ成り遅らせた。先週迄は疾っく…
喧しなる事、あつめて早しの如き五月の雨が工房の屋根を打ち鳴らしたのは月曜の事であった。日本を離れて九年と経つ間にすっかり地震と台風の脅威をこの身に忘れてしまっていたが、それを彷彿とさせるほど激しく降った。休憩を終えて工房に戻って来た見習い生が開口一番「猛烈な雨だね」と言って来た声さえ霞ませるほど消魂しく打った。「君、傘は持っているか」と自転車で通う私を案じる様な、またどこか滑稽がる様な質問をして来た見習い生に私は、「傘は持っているがね、なに、私が外に出れば雨は止むんだから心
花札の五月は菖蒲である。花札と言えば童の頃に父から教わって良くやったものであるが、菖蒲…
その日は強い風が吹いていた。雨も併せて舞っていた。何れも私が仕事から帰宅した後の事であ…
工房の移転に際して到頭自転車通勤をする事になった。この時の為にと自転車を買ったのも彼是…
日本は年度の変わり目である。日本は、と態々前置いたのはそれ即ちドイツでは年度の変わる時…
ドイツの人間からは飾り気のない人間味を感じる。私がそれを好ましく思っている、と言うのも…
ミュンヘンへ向かってカイロを発つ飛行機の中、断片的な旅の記憶が高速かつ鮮明に蘇った。自…
百聞は一見に如かず、と言う言葉の度が過ぎてしまうのが私の性質であった。まあ余り偉そうに思われたって嫌だから意を引っ繰り返すと、即ち聞いた噂話を鵜の如く飲み込む事が昔から如何せん苦手であった。かつて日本で働いていた頃の同期入社の男が入社してそう経たない内から「何某と言う名の先輩が全く仕事も生活も大層酷いらしい。金の管理も杜撰だという話だ。そんな最低な野郎に従うなんて御免じゃあないか」と眉間に皺を寄せながら私に話して来た事があった。この同期の男の言うような何某にまつわる悪い噂と