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御社の「業務プロセス改善」はなぜ頓挫したのか?~第5回 業務プロセス改善における組織文化の重要性~

第1回の記事の中で、業務プロセス改善は業務改革であると書きました。複数の部門が絡む業務改革を遂行する際には、企業が持つ組織文化がその成否のカギを握っているといっても過言ではありません。今回は、それが一体どういうことなのかを紐解いていきたいと思います。

そもそも組織文化とは何か

組織文化という言葉を調べれば、

ある組織内で共有される価値観、信念、行動様式の集合です。これは、その組織のメンバーがどのように振る舞い、相互作用し、目標を達成するかを形成する基盤となります。

ChatGPT

などと書かれているが、この組織文化のタイプは4つあります。

  1. 「従業員は家族の一員である」という言葉に代表される通り、会社をひとつの共同体だと捉え、役員・従業員はその共同体を構成するメンバーであるという家族文化(クラン文化

  2. 役員や上司によるトップダウン式の管理を重視する階層文化(官僚文化・ヒエラルキー文化

  3. 斬新なアイディアや新たなイノベーションを重視するイノベーション文化(アドホクラシー文化

  4. 競合他社に勝ち、市場で高い評価を得て収益を上げ続けることを重視するマーケット文化

です。

注意したいのは、それぞれのタイプで良い面と悪い面が表裏一体になっており、どの文化が良くどの文化が悪い、ということではないことと、普段は家族文化的ですが、あるときには階層文化のようになったり、同じ組織でも状況によって顔を見せる文化が変わるなど「ウチの文化はこれだ!」と一つに決まるものでもないことです。

足元の小さな行動に目を向けると、以下のようなものも組織文化と言えるでしょう。

例えば、ゴミが落ちていたらゴミを拾う、そしてそのゴミがなぜそこに落ちていたのかを考える、という文化は良い文化の例ですね。
逆に、13:00に昼休憩が終わってチャイムが鳴って初めて休憩室から動き出すのは、悪い文化と言えます。

さて、御社の組織文化では、良い面、悪い面、それぞれ何があるでしょうか。

なぜ組織文化が重要なのか

組織文化が形成されることのメリットは、主に4つあると考えています。

まず1つ目が、組織の一体感が強まり、目標達成に向けて関係者の意識を集中できることです。
2つ目は、「こういう方向性の期待に応えれば評価される」という認識が浸透することで従業員のパフォーマンスやモチベーションが向上することです。
3つ目は、意思決定のスピードが上がることです。組織全体の認識が共通になっていれば、方向性の違いによる稟議の却下などは極限まで少なくなります。
そして4つ目は、外部から見た際の組織のイメージが形成され対外的なイメージの確立に繋がることです。「あの会社はこういう会社だ」と認識されると、従業員も自身の企業を再認識し、次のより良い行動へと繋がります。

ここで改めて、業務プロセス改善との関連に目を向けると、挙げた4つのメリットは全てが業務プロセス改善の推進力となっています。つまり、良い組織文化を形成し、その組織文化の認識を組織に浸透させることは、業務プロセス改善の推進に繋がるということなのです。 

何が組織文化を作るのか

上記の組織文化形成のメリットを得るためには、まず自社の組織文化を認識、そして形成することが必要です。

それでは、この組織文化を形成するものは何なのかを考えてみます。

それは、一言で言えば、“トップマネジメントの言動”であると言えます。

詳細は次回の記事に紹介しますが、ここでは一例だけ紹介します。

「ウチの社員はリスクを負った挑戦をしない」という悩みを頻繁に耳にすることがあります。これは、従業員の立場から言えば、「失敗したら自分の責任にされて昇格のチャンスを失う」「提案に対して事細かく現場介入されてモチベーションを失う」などの理由がありますが、それは経営層自身に問題があることを示しているのです。

従業員にリスクを負った挑戦をしてほしいのであれば、経営層自身がリスクを負った挑戦をし、時には率先して失敗をする。あるいは、挑戦して失敗した従業員でも昇格させる、挑戦しない人を降格させる、などの意思決定を行うなどの方法がありますが、従業員の挑戦心に悩みを持つ経営者はそれをしようとしません。理由は、「自分の権威を失ったらどうしよう」「従業員の思い切った昇格降格をして失敗したらどうしよう」とリスクを恐れて行動しないからではないでしょうか。「ウチの社員はリスクを負った挑戦をしない」が聞いて呆れますね。

このように、トップマネジメントの言動一つ一つが組織文化を作り、その作られた組織文化が業務プロセス改善の推進力に繋がることを忘れてはいけません。

改革を進める有名な組織文化

製造業以外の企業も含めて、改革を進める企業の有名な組織文化を紹介します。

製造業であれば、最も有名なのがやはりトヨタ自動車でしょう。カイゼン文化や“人財”は製造業関係者であれば皆が知るところです。同じ自動車業界ではホンダの“人づくり”の文化もあります。人材育成が新しい価値を生み、その結果として利益がついてくるという考え方になっています。

製造業以外で組織文化と言われて真っ先に名前が挙がるのがGoogleです。Google社は「Googleが掲げる10の事実」を策定し、とにかく人とそのポテンシャルを重視する文化です。仕事量のうち15%は通常業務じゃないことをやろうという「15%ルール」などはその文化の象徴ともいえるでしょう。ちなみに、Googleカレンダーはこの15%ルールから生まれたというのは有名な話ですね。

同じIT業界で言えばAppleが特徴的です。Appleには企業理念がありません。それが正に自由闊達を象徴していると言えるでしょう。Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏の語り尽くされるほどの経営哲学が深く社内に浸透し、未だAppleという企業の文化を形作っている点で、創業者やトップの言動がそのまま組織文化になっている例です。

実際に改革を進めた中小企業の組織文化

最後に、私が知る業務プロセス改革に成功した企業の組織文化を紹介します。

前回の記事で書いた防音装置メーカーA社(従業員10名)の組織文化では、休憩時間には現場のメンバーが丸くなって椅子に座り、業務の話、改善の話などをする文化があります。そして、その現場が話し合った内容やその結果実行した改善に関して社長は何も言いません。これは、お互いの役割の認識が浸透しており、各々がなすべきことを遂行することが最も生産性が高いと考えているためです。家族文化的側面もありながら、官僚文化的側面も備えています。社長が今会社のためにやるべきことをやっている認識が従業員に浸透しており、社長が業務プロセス改善に集中した結果、システム開発に成功しました。

船のメンテナンスをする企業B社(従業員16名)では、メンテナンスした船が出港する際には、メンテナンスの作業員、事務員、技能実習生、社長関係なく、社員全員で手を振り見送る文化があります。一つの船の安全を担う意識の醸成が従業員一人一人に浸透している証拠です。B社は、漁船を陸上から遠隔監視するIoTシステム開発に着手し、近々完成する予定ですが、根底にある「船の安全な航行を担う」共通認識の下、技術者事務員全員がシステム・サービス開発に対してモチベーション高く取り組めた結果なのです。

B社のレクレーションの様子
B社の作業の様子

御社の組織文化はどうなっているでしょうか?業務プロセス改善を推進するメリットが得られるように形成されているでしょうか?トップマネジメントの言行は一致しているでしょうか?足元の行動一つ一つを振り返ってみる機会になれば幸いです。

次回は、組織文化に影響を与えるトップの言動について、より詳細な事例を紹介していきます!

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