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寝付きが悪いときに書くコラム  そいつどいつ・松本竹馬『よしもと幕張イオンモール劇場にいる硬派なヤンキー兄貴達』

よしもと幕張イオンモール劇場にいる硬派なヤンキー兄貴達


こんばんは。
そいつどいつ松本竹馬です。
このコラムは寝つきの悪い僕が寝れないときに書くコラムです。

前回は、僕を悩ませるカリスマ性について書きました。今回は、僕が最近行くことの多くなった、『よしもと幕張イオンモール劇場』について書きたいと思います。


よしもとは常設する劇場をいくつも持っている。
渋谷・ヨシモト∞ホール、新宿・ルミネtheよしもと、神保町よしもと漫才劇場、大宮ラクーンよしもと劇場、よしもと幕張イオンモール劇場、沼津ラクーンよしもと劇場…
他にも大阪にも3劇場、京都や福岡にも劇場を持っていて、僕らよしもと芸人にはたくさんネタをする場がある。

僕らは看板メンバーとして出させていただいてる渋谷・ヨシモト∞ホールがホームグラウンドで、キングオブコントの決勝に行ってからは、新宿・ルミネtheよしもとにもよく呼ばれるようになった。
よしもと幕張イオンモール劇場にはほとんど呼ばれることはなく、キングオブコントの決勝に行っても月に1回呼ばれるか呼ばれないかくらいで、土日祝日の休日公演なんて多分1回も出たことがなかった。
それが最近、呼んでもらえる機会が増えてきたのだ。


まず、よしもと幕張イオンモール劇場とはどんな劇場か。

とにかく遠い。

僕の家から自転車で15分で簡単に行ける渋谷・∞ホールと違って、電車で1時間半くらいかかる。

そして、企画が攻めている

出演している芸人ですら、最後まで趣旨が分かっていない企画を平気でしている。

にもかかわらず、幕張劇場にはコアなファンがたくさんついていて、わざわざ遠くから休みをとって見にくるお客さんもいる。
それはひとえに様々な攻めた企画を打ち出す幕張劇場の支配人と、幕張劇場に毎日のように出演している大宮セブンのみなさんの力が大きいのだろう。

大宮セブンとは、M-1チャンピオンのマヂカルラブリーさんを始め、キングオブコント決勝常連のGAGさんや、すゑひろがりずさん、囲碁将棋さんなどからなる7組のユニットで、全国をツアーで回ったり埼玉テレビで冠番組を持ったりしている人気のユニットだ。
元々、幕張劇場の支配人が大宮劇場の支配人だったときに立ち上げたユニットで、その支配人が大宮から幕張に異動になったため、一緒に幕張についてきた形だ。

この大宮セブンがとにかくお笑いをやりすぎて、もう別次元の方へ行っている。
お笑いが何周もしていて、普段の劇場ではウケるような立ち振る舞いをしてもあまり笑ってくれない。
この大宮セブンと幕張の支配人が本当に目を輝かせるのは、信じられないスベり方をしたときか、無茶振りなどで追い込まれて喜怒哀楽をフルMAXで出す、真の人間力が出たときだ。

もちろん大宮セブンのメンバー全員、お笑い力は高いので基礎的なことも全然できる。
ただ、「お笑いは想像の裏切りだ。」という言葉を使うなら、このお笑いの化物達の想像を裏切るのは普通のことをしててもダメなんだ。

とあるライブでとりあえずウケるような感じで立ち振る舞いをしているときに、支配人に一度言われた。

「普段の劇場でやってることが、ここで通用すると思うな。」と。


初めて僕が幕張劇場で褒めてもらえたのは、大宮セブンの一角であるコマンダンテの安田さんと60分のライブで20分スベり続けたときだ。
その日僕は大きな仕事を終えた後で、緊張感からの解放感で少し心が麻痺していた。普段ではしないような前の出方をして、安田さんと一緒にめちゃくちゃスベった。ただ麻痺してるもんだから、そこで一歩も引かず20分スベり続けたら、ライブ終わりになぜかGAGさんと支配人に「お前やばいな。」と褒められた。

そして、そこからは怒涛のように幕張劇場に呼ばれるようになった。


幕張劇場では、とにかくチャレンジすることを求められる。
スベろうが変な前の出方をしようが攻めの姿勢を取っていないといけない。

そしてチャレンジさえすれば、とんでもなくスベっても「ナイスファイト。」とか「ヤバいな、お前。」とか笑いながら声をかけてもらえる。僕はこれで幕張に呼んでもらってる以上、とにかく全力でチャレンジし続けるしかない。
最近の幕張では、ずっと変な前の出方をしてスベったり、イジられてキレたり、変な絡み方をして誰かとケンカしたりしている。コンビのブレインとして舵をきり、クールに笑いを取るバナナマン設楽さんのような売れ方をしたかった僕の理想とは真逆だ。

ただ気をつけなきゃいけないのは、幕張での感じの立ち振る舞いを他の劇場でもやってしまうことだ。
ちゃんととんでもない空気になる。
しかも幕張とは違い、演者からもマジで嫌がられる。
客層がそもそも違うのだ。
幕張劇場に来るようなコアなお笑いを求めているお客さんも少ないのに、ただただ攻めたことをやっても喜ばれるわけがない。
でも、「投球フォームを崩して、他の劇場でもこんなことをしてスベった。」なんて話しを、GAGさんなんかにすると嬉しそうに笑うのだ。


幕張劇場というのは、まさに硬派なヤンキー兄貴達が集まる暴走族集団だ。チャラチャラしてるヤツがいたら、呼び出してとっちめて、角刈りやリーゼントにして、本物の漢とは何か教える。

あれだけシュッとしてたコマンダンテの石井さんや、大阪時代はスーパーMCとして活躍してたGAGのひろゆきさんなんかも、舞台上で追い詰められて号泣してるらしい。
そして、そこから全てを解放して、泥臭い人間力で笑いを取っている。


初めて聞いたときは耳を疑ったが、僕も一度喫煙所で支配人にハッキリ言われた。

「次はお前を泣かしたい。」と。

そして、何故か30分ただただガチでトレーニングをするだけのライブに呼ばれた。
僕は「なんでこんなことしなきゃいけないんだ!」と喚きながら、ジェーラドンの西本さんをおんぶしたままスクワットをして、ちゃんと体を痛めた。


この意味のわからないトレーニングライブも元々、コマンダンテの安田さんがGAGのひろゆきさんとやっていたやつで、僕はただ客席からガヤを飛ばして馬鹿にしているだけだった。
でも、安田さんが「お前も何ヶ月後かには、こうなるからな。」と言ってきて、「やらないよ、オレは。そんなんで笑い取りたくないよ。」って返していたら、3週間後にはこのライブが決まっていた。

(てかこれを見てたら、本当に安田さんやひろゆきさんがシュッとしていた時代があったなんて信じられないな。男性ブランコの平井さんもひろゆきさんのあまりの変わりように酒を飲みながらしみじみと心配していたな。)


僕はこれからも幕張劇場に求められる以上、何事も全力で攻める姿勢でいくしかないが、ただ1つだけ疑問がある。

それは、「この幕張でやってることは、テレビで通用するのか?」ということだ。


他の劇場でも通用しないなら、テレビでも通用しないだろうし、昨今のテレビ業界は昔と違い特に敏感だ。
コンプラだって厳しいし、ちょっと尖ったことや過激なことを言ったらすぐに炎上する。
スベっただけでも、粗探しが生きがいみたいなヤツがネットで叩いてくる時代だ。
僕も昔、テレビでちょっと尖ったことを言ったり、ケンカをしただけで、かなり叩かれた。
水曜日のダウンタウンの「コンプラ厳しすぎても芸人は従うのか?」の説でも、概ね好評な意見だったが、一部では否定的な意見もあった。

そんな難しい視聴者がいる中で、この幕張のノリがテレビなんかに流れたら、気絶するくらいそいつらはキレるんじゃないかと思う。
そもそも決められた台本や流れがあるテレビと、こんな自由な幕張のノリは真反対だ。
もちろん幕張劇場での出番を通して、お笑いの地肩は確実に強くなるが、幕張劇場での投球フォームのまま、テレビにいくのは危険なんじゃないだろうか。



そんなときに僕に背中を見せてくれたのは、前回のコラムでも出てきたうるとらブギーズのお二人だ。

うるとらブギーズさんはキングオブコント3年連続ファイナリスト、いわずとも知れた本格派のコント師。誰もが認めるコントのスペシャリストだ。
大宮セブンのメンバーではないが、幕張の支配人に気に入られていて、大宮セブンのメンバーと同じかそれ以上に幕張劇場に出ている。

ただこんなに凄い本格派コント師のお二人が、今幕張でとんでもないことになっている。

まず、うるブギのブレインとしてネタ作りも担当している八木さん。

これが今や、変な透明のセルみたいなマスクをつけて、毎回ライブのコーナーに出ている。完全な出オチで、声もこもるマスクなので何言ってるのか分からないときも多々あり、変な前の出方をしておスベリになられている。
もちろん追い詰められて舞台上で泣くことも経験済みで、なんならライブ終わりにスベりすぎて涙目になってるところを何度も見たことがある。

ツッコミ担当の佐々木さんも同様におスベリになっていて、毎回ひろゆきさんとかMCの方に変な絡み方をしては、誰かを巻き込んでおスベりになっている。
勿論、2人ともたまに大爆笑をとることもあるが、確率でいえばかなり低いだろう。とにかく本格派コント師の2人が、幕張という僻地で致死量レベルでおスベリになっているのだ。

でもある日、佐々木さんが出番前にマジックで太い眉毛を書いて、コーナーに出ようとしていたので僕は一度言ったことがある。
「なにしてんすか。スベリますよ、それ。そんなことやってもテレビじゃ通用しないですよ。」

そう言ったときに佐々木さんは、
「いいんだよ。幕張にはこれで喜んでくれる人がいるんだから。」
そう言ってそのまま舞台に出て行った。

正直、カッコよかった。
そして、芸人の魂を見た。

芸人の本質は、テレビやYouTubeなんかで無料で見てくれている人じゃない。お金を払って劇場に見に来てくれている、目の前をお客さんを楽しませることなんだって。


幕張には攻めたお笑いを求めているコアなお客さんがいる。
そのお客さんが楽しんでくれるなら、全力でスベることも正義なんだと。
そして、全力でスベるかもしれないことにチャレンジしていくことが、たまに爆笑に繋がることも僕は幕張劇場から教わっている。

その日佐々木さんは予想通り、綺麗なおスベリをして顔が溶けていたが、その姿を喜んでくれてるお客さんも多分いたのだろう。


ただ一つ、ズルいなーと思うのが他の大宮セブンメンバーだ。

マヂラブさんやすゑひろがりずさんなんかを見てても、器用に劇場は劇場、テレビはテレビで見事に投球フォームを使い分けている。
劇場では、攻めた企画でめちゃくちゃなことをやってコアなお笑いファンを楽しませて、テレビのゴールデンなんかでは、テレビ用の番組の趣旨に沿った笑いを取り、一般の視聴者を楽しませている。
これが本当の理想の形だ。


先日、キングオブコント2022の開催を発表する記者会見があったのだが、うるブギさんだけが、幕張と同じ投球フォームでスベりまくっていた。
完全に投球フォームを使い分けられてなかった。

ただ側で見ていてすごく愛くるしかった。

本格コント師から後輩にも気楽にイジられるようになった、変なマスクと太眉の2人はもう無敵かもしれない。


僕も投球フォームを使い分けるなんてまだ全然できない。
初めて出た「ラヴィット!」でも2時間の生放送でコンビで14回スベった。ただ、それでもそこからスタジオもロケも呼んでもらえてるから、幕張みたいな攻めたノリでも面白がってくれるテレビ番組もあるのだろう。


でもいつかは僕も劇場は劇場、テレビはテレビと器用に投球フォームを使い分けられる芸人になりたい。

そのためにはいつも出ている渋谷∞ホールもよしもと幕張イオンモール劇場も、全ての劇場が大事だ。
劇場によって違うお客さんの層に合った笑いを様々な投球フォームを身につけて、届けていかなければならない。

とりあえずどこまでついていけるかは分からないが、幕張の暴走族集団には喰らいついていきたい。

「幕張に負けるな。」そういうDMもお客さんから届いている。


あーでも…

角刈りやリーゼントは嫌だなー。


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著者/ そいつどいつ・松本竹馬


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