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ストリップ劇場で働いていた体験記~赤青緑のパーライト~ たくみ

たくみの連載小説。
自身の経験に基づいた「ストリップ劇場のバイト」のお話をストレートな気持ちで綴ります。

踊り子さんはただひたすらに格好良い

とあるストリップ劇場。
そこで僕はバイトをしています。

照明をするようになってから出勤の度に途轍もなく緊張をしていました。
照明は指示を出されているところ以外はこちら側の裁量に任されているのですがこれがより緊張を増幅させていました。
踊りや曲。衣装などから照明の色を決めてつけるのですがなにぶん自信がないのです。
自分の中ではピンクだと思ってつけた色が全く違うという可能性もあるのです。
今になって思うとこの暗闇に〜のような歌詞の歌の時に真っピンクの色をつけていたりと無茶苦茶なことをしていたと思います。
衣装の色が赤なのに赤い照明をつけて色を潰してしまったこともありました。
最初の頃はどのように機材を操作したらどの色がつくのかもよくわからない状態でした。
そんな正解がない中でわたわたしていると次は指示に沿って暗転や明点をしていかなかればならずパニクってしまいます。
こんな状態が続いていたのでこれでは駄目だと思い劇場が開く前に練習することにしました。

僕のバイトしている劇場ではステージを練習する場として開場前と終演後に踊り子さんが使っていることが度々ありました。
お客様が入られる大分早めに入る劇場。
いつもより空気も冷たいと感じる劇場の階段を降りステージの方を見ると踊り子さんが練習をされていました。

はやいねどうしたの?

照明やり出したばかりなので練習したくてきました

そんな会話の始まりだった気がします。
今まで働きながらも踊り子さんとちゃんと話すことなどなかったので内心びくびくしながらお話ししたのを覚えています。
その踊り子さんは新しい演目をするために早めに劇場にきて練習をされていました。
場所にもよるのですが僕のバイトしている劇場はその当時はお昼からはじまり終演は夜遅く。それを十日間のスケジュールでした。
そんな過密な日程の中早く来て新しい演目の練習をしている。単純に凄いな。そう思いました。
そこから練習の合間にお話しさせてもらえる事が増えてストリップのことについて様々な事を教わりました。
僕のバイト先は逐一教えてくれるというよりかはみて覚えてねという感じの劇場だったので細かい事を教えてくださった事は感謝してもしきれません。


投光室でああでもないこうでもないと機材を触りながらふとステージの方を見るとその踊り子さんが真剣に練習をされていました。
普段は面白くて気さくに話している踊り子さんは別人のような真剣な顔つきで何度も動きの確認をしています。
その表情を見てより一層ちゃんとした照明をできたら。その踊りの力添えできるような綺麗な照明をしたい。そう思いながらまた機材と格闘しました。
何日間かそんな日が続き踊り子さんが

今日新しい演目やってみる

そうおっしゃって僕まで緊張をしました。
お笑いでも新ネタをする時の恐怖は半端ないもので笑いが全く起きなかったらどうしよう。この世の終わりだなと思うくらいに緊張します。
それと似た感じのことなのかなと勝手に解釈して勝手にこちらまで緊張をしました。

その日二回目のステージで踊り子さんは新しい演目をされました。
その時僕は投光室から様子をみていました。

はじめてお客様の前でする踊りのはずなのにそんな事は微塵も感じさせずありったけのその魅力をステージで披露していました。
最後の最後まで美しくステージが終わり暗転すると沢山の拍手の音が劇場に響きました。

ただひたすらに格好良かったです。


ステージを終えた踊り子さんはステージの袖で涙を流していました。
悔し涙でした。
ちゃんとできなかったことへの悔しさの涙でした。
みている僕からしたらあんなにも格好良かったのに。

その姿を見て尊敬する気持ちを持ったのと同時に悔しくて泣ける程お笑いをやっていない自分に腹正しさと惨めさを感じました。
その日から真剣に取り組まないとなと考えを改めました。

なにかでうまくいかなかったり落ち込んだ時はあの世界一格好良い涙を思い出して自分を鼓舞させています。

たくみ(1990年8月14日)(31歳)
千葉県船橋市出身、NSC東京校20期
ナミダバシとして5年間活動、昨年解散を発表。

著者/たくみ

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