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ウスター美術館蔵・印象派展 感想

東京都美術館で開催されている印象派展。ウスター美術館はアメリカ・ボストンから西に進んだところにある、アメリカでも最初期に印象派の絵画を集めていた施設です。

ウスター美術館のエントランス

印象派展は山ほど開催されてきましたが、今回はかなり異色の内容だったと思います。モネが2点しかない、ということもありますが、主眼が「印象はどのように国際的な様式として普及したか」というものでした。

概要

第1回印象派展から150周年を迎える2024年、印象派がヨーロッパやアメリカへもたらした衝撃と影響をたどる展覧会を開催します。 19世紀後半、大都市パリには国外からも多くの画家が集いました。パリで印象派に触れ、学んだ画家たちは、新しい絵画の表現手法を自国へ持ち帰ります。

本展は、西洋美術の伝統を覆した印象派の革新性とその広がり、とりわけアメリカ各地で展開した印象派の諸相に注目します。

公式ホームページ みどころより

前半部でコローからモネ・ルノワールなどが並び、後半部はアメリカを中心にした印象派の作品が並んでいました。

アメリカの印象派というものを中々見る機会はないので、とてもいい機会でしたし、当時のパリやモネの家周辺にアメリカ人や北欧系の画家たちが治療に住んで、芸術家コロニーを形成していたことは初耳で、「フランスの様式」としての印象派は早々に国際化が進んでいったのだなと感じます。

チャイルド・ハッサム《シフルズ・ロック アップルドア島》 1907年

彼らは帰国後はアメリカの風景を主題に印象派的な表現を展開していき、徐々に個性が芽生えていきました。その生成過程が興味深いものです。日本の明治時代の洋画家たちにも同じことが言えるということで、黒田清輝らの絵も並んでいました。

国際様式としての印象派、という観点は面白く、今後もこのような主題で企画される展覧会は増えてくるのかなと思いました。

数年前にドイツの印象派としてレッサー=ユリィという画家が少し話題になっていてたように、ひとつのフォーマットとして日本に受け入れられやすいのではないでしょうか。

感想

①日本人画家の作品がよろしくない

↑で詳しくは書いておりますが、近代洋画は日本美術史の範疇ということで、西洋絵画のとなりに並ぶことはほとんどないのですが、今回は珍しくそのような作りになっています。

そのため、今までは見ないふりをしていたり、洋画の伝統がなかった国だから仕方がないという風に目を背けていたものが、はっきりと見えてしまい残酷でした。

要は比較にならないほど下手です。黒田は及第点で、一応少しだけあちらでも評価されたのは頷けますが、他の画家は目も当てられません。

また、大正時代の洋画家たちはすぐにポスト印象派や表現主義の表現に向かうため、日本で印象派的なものがもてはやされたのは1890~1900年代くらいの短い期間だったことは意外に感じます。そこまでウケがよくなかったのです。

②風景画とナショナリズム

現実の風景を描く=その場を称揚する=ナショナリズムという構図は、政治臭が脱臭された印象派の展覧会で感じることは稀ですが、アメリカの印象派の流れではっきり分かるのが面白かったです。

チャイルド・ハッサム《花摘み フランス式庭園で》 1888年

印象派は反アカデミーということで結集し、あのような表現を志向しましたが、アメリカからの留学生はその構図が、アカデミー=ヨーロッパ、印象派=新しい表現=アメリカというような、ヨーロッパ的なものから抜け出そうという意志へと変換されているように感じます。

19世紀後半のアメリカは産業が一気に成熟して、独立国としての気概を持ち始めた頃です。そのためアメリカにも美術館をという機運が各都市で高まった時期でもあります。そのナショナリズムの波と印象派という新しい表現法は、タイミングとしてぴったりでした。

ウィンスロー・ホーマー《冬の海岸》1892年

雄大なアメリカの風景を描き切ったハドソン・リバー派の表現にも、印象派のエッセンスが感じられるという指摘や、アメリカにおける印象派の受容は日本のように短期的ではなく持続していったことなど知ることができます。

副題にモネの名前がついているにも関わらず、知らない名前が複数おり、旧来の印象派展のファンなら落胆するかもしれませんが、その分新たな発見と印象派の奥行きを認識できたので刺激になりました。特にチャイルド・ハッサムという名前は覚えておこうと思います。

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