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多様性の中に、美しさと力強さがある。

ここ数日ミネアポリスの哀しい事件がアメリカ全土だけではなく、世界中にまで広がっていて、Trump大統領になってから加速したヘイトクライム=アメリカの闇の部分が浮き彫りになっていると感じる。と同時に、この状況に反対する良心的な人たちの運動も全土で起きているから、まだアメリカに希望はあると思える。

日本にいると、差別による殺人事件の頻度はアメリカほどは多くはないかもしれないけれど、日々の差別は根深くなかなか消えてはいない。

もうずいぶん前だけれど、派遣会社から義務教育の後に社会人になったある若者が生産ラインにやってきた。ぶっきらぼうだけれど、年上の人に可愛がられるおとなしくて真面目な人だった。二年ほど経った頃、あまりの腕の良さと仕事の早さに彼の直属の上司が、正社員雇用のテストの枠に彼を入れて欲しいと言ってきていた。当時、生産ラインの派遣社員はその期間で正社員になった人がいなかったので、現場では異例の抜擢となった。

彼が試験を受けるにあたって、総務から必ず健康診断を必ず受けるようにとお達しがあった。

会社では雇用のスタイルに関係なく健康診断を受けることが出来たので(今は派遣社員は派遣会社のところで健康診断を受けることになっている)、実は彼が一度も健康診断を受けていなかったことに驚いた。

すると彼は、別の病院で受けてくるのでそれを提出してもよいかと上司に聞いてきた。彼はものすごく頭がよかったからその筆記試験に落ちるとは誰も考えず、会社の健康診断さえ受けてくれれば問題なかったから、今さら別の病院で受けたいという彼の希望は却下された。

健康診断の日、彼は会社を休んだ。      そしてその翌週に辞表を出し、なんの説明もなく会社を去っていった。

何故、彼はかたくなに健康診断を受けることを拒んだのか。                 そしてそれは正社員になるチャンスを棒に振ってまでの理由だったのか。

社内では噂と疑問がどんどん膨らんで何が真実かわからなくなっていた。           のちにその理由が判明する。

彼の苗字は「在日韓国人」とわかるもので、学歴も関係したかもしれないが、いざ社会に出て就職となったときに仕事がものすごく限定されたらしかった。そして、やっとの思いで就職した先でもそのことでものすごくいじめられていたらしい。

うちの会社では彼の上司が差別のない、理解と思いやりのある素晴らしい人だったから、彼が受け入れなければいけなかった今までの不遇を全て包み込むような優しさで彼を見守っていた。だから正社員への道を提示された時も、その上司の下でなら頑張れると思っていたのだろう。

実は会社は、彼の身体に入れ墨があるために健康診断を受けないということを知っていた。正社員になるには入れ墨を消すのは必須ということも会社から言われたらしかった。なので、その入れ墨を消す気持ちがあるのなら正社員にしよう、そんな話が水面下ではかわされていたらしい。

彼の風貌からは全身に入れ墨が入っているとは到底想像できなかった。全身の入れ墨にはもちろん意味があって、彼はそれを自分の大切なアイデンティティとしていたのでそれを捨てることは自分をなくすことであり、そこまでして社員になる気はないということだった。

彼が全身に入れ墨を入れるようになったいきさつはわからない。ただ、自分ではどうすることもできない国籍と家庭環境で、恐らく同年代の友達には思いもつかないような大変な青春時代を送っていたであろうことは想像できる。

彼の入れ墨はファッションのカテゴリーに入れるようなそんな可愛らしいものではなく、何というか、突き抜けた覚悟とプライドが深く刻み込まれていたような本気の絵柄だった。       のちに、彼を可愛がっていた人がその入れ墨の写真を見せてくれて、私は映画以外でそんな入れ墨を見たことはなかったから「デザインは自分で決められるの?」と、まるでセミオーダーの靴を注文するかのような、間抜けなコメントしか返せなかった。

会社の就業規定には、「従業員は国籍、性別、社会的身分のいかんによってい差別的取扱を受けることはない」とある。これはどこもだいたい同じだろう。彼は会社から正社員の打診を受けたのだから、表面的には国籍で差別は受けていない。

ただ彼の希望する多様性は残念ながら、当時のうちの会社にはなかったのかもしれない。

黒人と白人が対立する構図だと何となく善悪が明確で感情移入しやすいのかもしれないが、自分の周りを見渡せればいまだに消えていない差別は山のようにある。ただ自分の意識をどこに持っていくかの違いがあるだけ。

アメリカの活動家でもあり詩人であった   Maya Angelouの言葉。            In diversity, there is beauty and there is strength.

「好き」が多いと、差別になりにくい。    「好き」が多いと、世界が広がる。      「好き」が多いと、それは力強さになる。

自分の中に「好き」を増やしていきたいと思う。

温かいお気持ち、ありがとうございます。 そんな優しい貴方の1日はきっと素敵なものになるでしょう。