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目に見えない特徴が個性になる日。

今日はちょっとデリケートなお話。ここのところメディアでも学校でも本当にフツーに出てくる四文字のアルファベットについて。周囲に理解されて、その特性に合った仕事に従事できればきっと大きな問題ではなくなるのではないか?と思うのが「ADHD」。ただ、本人に違和感があり、周囲に気付かれず、家族でさえも現実を直視するのが困難で、どうしてみんなやってることが同じように出来ないのだろうと悩むことがあるのなら、早めにクリニックに行き、診断されてその人にとっての適したアドバイスを仰ぐのが現状での最善ではないかと思う。

仮に病院に行ってなんらかの診断をされても、人には個性があるようにAさんとBさんが全く同じようになるのか?と言われると、その人の生まれ持った性格や環境、対処方法などでその出方を左右することがあると思う。ただ、その特徴を持つ人を職場で何人も見ていると、ふとした拍子に、あ!これはもしや…と気づく共通の一瞬がある。

これはあくまで私が直接感じたり、話したり、と実際に自分の身近にいた方たちの事例で、本当はもっと人数がいたけれど、私が特に何とかならなかったのかなぁと後ろ髪を引かれた3人についてのこと。なので、もしご家族にADHDと診断される方がおられたとしても、参考になるかどうかも分からないし、異論もあるかもしれない。
ただ、ADHDと診断された人たちの多くが会社でその特性を理解されずに生きづらくて、辛くて、最終的に辞めてしまうと言う選択を余儀なくされるパターンが多いような気がしていて(あくまで個人的見解)、もう少しADHDが会社や周囲に認知されて、何よりご本人が認識出来ていたらもしかして違う展開になっていたのかな、と思うことがあったので書こうと思う。

ある時、一人の男性が私の部署にやってきた。頭脳明晰、人柄も良く、スタート時点ではいい人が来てくれたと皆とても喜んでいて、実際にすぐに新しい環境に馴染んでいた(ように見えた)。
ちょうどその頃会社は急激な右肩上がりで、その部署に会社から与えられる目標はかつてないほどの数字になっており、下期になるとプレッシャーで皆少しギスギスするほどだった。
目標の数字が上げられたからといって、社員の頭数が比例して増えるわけではないから、兼務の仕事が一気に増えることになった。並行して新たなシステムも導入されるようになり、毎月何かしら新システムの説明会があり、使い方のレクチャーを受けなければならなかった。
その人に対してあれ?と違和感が出たのはちょうどその頃だった。
客先から電話があった後に電話の前の会話を続けようとすると、完全に初めて聞いたような反応をされることが増えていた。さっき説明したんだけどな、と思いながらも、もう一度説明をする。その時に、他の部署の人が彼に話しかけ、彼がそこで軽く言葉を返し、もう一度こちらに振り向いた時には二度目の説明も完全に忘れていて、何の件だったかなぁという感じだった。
またある時は、新しいシステムの取説を渡されて、IDとPWを設定するも、どこへそれをメモしたのか分からなくなっていて、いつまでたってもなかなかシステムにログインできない。ところが、彼の専門分野の質問をされた時にはそれが5年前であろうが、一言一句契約内容や製品の仕様、その時にかわした顧客との会話まで完璧に記憶していて説明してくれる。なのに日常的なことだと、「わかりました」と話した5分後にその話題が出てもさっぱり訳が分からないという感じだった。
そのうち、周囲の人から物忘れがひどすぎる、会話が成り立たない…など、苦情の声が大きくなって来たけれど、とにかく毎日が忙しすぎたから会社もまともに取り合っていなかった。そうこうしているうちに、客先の名前を間違える、請求金額の桁を間違える、社内での会話をそのまま客先にメールしてしまうなど、明らかにおかしなことが目に見えて出て来た。
その頃には流石に会社も彼の異変に気付いて、まずは産業カウンセラーに診てもらうことになった。そして、カウンセラーの勧めで病院に行き、そこで初めて「ADHDの疑いがあり」との診断、一時的に休むことになり、この忙し過ぎる環境は酷だろうと言うことで会社は彼を遥か遠くへ異動させた。
異動前の彼の状態はひどく、周囲は言葉には出さないけれど苛立ちは態度には出ていたから、自分の思いと違う反応を受けると、大きな声で怒鳴ったり、叫んだりするようになっていた。恐らく自分の思いをうまく言語化出来なかったのだと思う。あと、これはこの人の特徴だったのかもしれないけれど、自分の要求することがあるときはその相手がどんな状況でもその人のデスクの前に立って「僕の話をいますぐ聞いてください」と言って、聞いてもらえるまで本当にずっとその人の机の前で待っていることがあった。

次の男性は、20代で外資系からの転職で中途採用で来た人で、フレンドリーな人柄だったから他部署の人間からもとても好かれていた。
ところが少し経つとあまり見かけないようになる。その部署の人に聞くと、早起きが出来ないと言うことだった。
ある日廊下で見かけたので、様子を聞くと、 「毎日毎日怒られてるから、ストレスで会社に行きたくなくて、起きれないんです」と言う。私はたまにしか彼と仕事で絡むことはなかったけれど、一緒にする時はいつも仕事は早いし、どこにそんなに怒られる要素があるのかよくわからなかった。
聞いたところによると、彼は担当の仕事で怒られているのではなくて、いわゆる一般的な、例えば月末に就業管理を出すとか、毎週決まった資料を出すとか、能力というより仕事以外の日常業務がとにかく出来ないので周りが困惑しているとのことだった。彼も高学歴でそもそも外資系から転職した理由が、お子さんが生まれたタイミングで異動の話があり、子育てのために転職を選んだという話を聞いていたから、日常業務が得意ではないというのはどうもイメージが湧かなかった。
半年も経った頃、彼はさらなるキャリアアップのためにということで自主退職した。      退職の日、廊下で次の会社で頑張ってねと言うと、実はその日常業務が出来ないことで上司からずっとパワハラを受けていたことを本人から聞くことになる。

その次の男性は、入社前から優秀と前評判が高く、そのポジションは長らく空いていたこともあり待望の人材ということで両手を広げて迎えられた。初日の挨拶もソツがなく、ハキハキしていて、笑顔も多く、素晴らしい人が来てくれたと皆喜んでいた。彼の部署は海外との取引が多かったから、外国語は必須で3ヶ国語くらいできると望ましいけれど、とりあえずは英語ができればよかったから、今まで不在のポジションをカバーしていた人たちは本当にこれでやっと開放されると大喜びだった。
ところが、蓋を開けてみると入社前の情報と彼の実の姿には大きな隔たりがあるのに皆が気付く。まずIDとPWなどを全て手帳にメモするのにも関わらず、毎回どの組合せなのか混乱してしまうらしく、PCの立ち上げのところからつまずいて悩んでいた。今はシステムがもっと増えたけれど、その当時でもIDとPWは最低でも5個はあって、担当業務によっては10個くらいあるのは普通だった。
そして、彼は外国語が全く出来なかった。面接や履歴書でも外国語に問題なしということだったので、出来ないのにどうして出来ると言ったのかとのちに聞いてみると、出来ると言うと採用されることがわかったから言いました!と、彼は全く悪びれずに教えてくれた。
例えば、フランス企業と取引があるのでフランス語の流暢な人材を探していると面接で言われて、全くフランス語が出来ない人が採用されるために出来ます!と言うものかな?と、社内ではその人に対する疑問が日に日に膨らんでいた。

彼の主な仕事は外国語でのやり取りが必須でほとんどの割合を占めていたから、彼が採用されてから顧客への返信がどうやらストップしていることに気付いた上司が、顧客へのメールは自分にCCを落とすようにと指示をしたけれど、そもそもの文章が全く書けなかったからCCどころではなく、そのことで叱責されるとすっかり意気消沈してしまい、何かと理由をつけて休むようになった。この時には上司の叱責が日に日にひどくなり、もはやパワハラでは?のギリギリのところまで追い詰められていた感じがあった。
不眠が続いて会社で寝てしまうということで、本人もおかしいことに気づいて、入社して三ヶ月後にようやくクリニックへ行くことにしますと本人が会社に伝えた。

そうして出た診断が「ADHD」だった。
人生で初めての心療内科で、その診断はもちろん予測不可で一体自分が何故このようなことになっているのか、新しい職場で何故仕事がうまくいかないのか?など、彼は色々医師に質問したようだった。当初は会社も本人も環境の変化で鬱になっているのだと思っていた。結果は一時的に弱っているけれど、鬱の診断ではなかった。
彼もまた高学歴で今まで転職がたやすかったことから、まさか自分がそのような診断を下されるとは思っていなかったらしい。ただ職場での違和感の謎がやっと分かってホッとしました、と後日唯一心を許している先輩に報告したと聞いた。半年後、彼は静かに会社を去って行った。

大人になるまで診断されることがなかった人達は、それまでの兆候がなにかしら出ていて、人間関係でこじれることが多かったり、騙されたり、相当な生きづらさに気付いていたとしても、いきなりクリニックで診断してもらおうというようにはならない。まして、高学歴で頭が抜群に良くて仕事ができるのだから、周囲もそのようなことは気楽に口には出来ない。
そして、よくよく観察してみると興味のある分野についての能力は抜き出ていて、かつ記憶力が抜群にある。
また、自分の発する言葉でときどき周囲が戸惑う反応もすでに習得していることが多いから、本心をさらけ出すこともあまり無い。
ただ、周囲で何が起きていて、それにどう対応するのか?という経験のサンプルがないと本当にパニックになってしまうようだった。
どうしてこのことで相手が怒りを出しているのか全く理解でいないというのも特徴のような気がする。
上記の3人もよく、「僕の何が悪いんでしょうか?部長がなんだか怒ってるんですけど、何故かわからない」というようなことを頻繁に言っていた。彼以外の人は彼が怒られている理由を把握していたけれど、本人は全く分かっていないことがわかった。だってこういうことがあってあなたがそういう言動をしたら、結果的に怒りの反応になってしまうでしょうと説明しても、本当に分からないようだった。

以前、身体の不自由な人が雇用されたときは、見てすぐに分かるから、こちらも困ったことはないかとても言いやすかったし、手伝いやすかった。でもこの目に見えない特徴を持った人たちはちょっと融通のきかない個性のようなもので、そもそも本人が理解していないこともあるから、すぐに理解できるというようにはいかないということも徐々に分かってきた。

結論から言うと、現時点で本人に意識がないとそのまんま突っ走ることになるから(周囲も変わった人という個性として片付けてしまいがちになるから)、会社組織ではその態度が反抗的と取られてしまい、パワハラをされやすい方向にいく確立が高いのではないか、ということだ。これは本当にもったいないと思う。何度同じ事を言っても出来ない人と一刀両断で決めつけてしまうと、その人が持っている特有の症状なのだということにはなかなか気付けない。これは本当に難しい。なので、せめて家族や親しい人たちが早い段階で気付いて、人とのコミュニケーションとの取り方や、向いてないことはしなくてすむような環境が少しでもあれば、もう少し長く働けるのではないかなぁと思ったりした。

ただ彼らの特徴がわからないと本当に身近な上司や先輩は疲弊する。まず、コミュニケーションが成り立たないことが多いから、仕事がどんどん増える。その人の分を代わりにするだけではなく、彼らの失敗を全てフォローしていかなくてはいけないために、最後の人の教育係になった人はいきなり仕事が2.5倍くらいに増えて、僕はもうウツになりそうです…と訴えていたほど大変そうだった。

だからこそ、ADHDの診断が出たと聞いたときは本人よりその教育係の人の方が、ホッとしていた。僕の教え方が悪いのかとずっと思っていました…と、彼も悩んでいたのだった。

この前来た人もそんな感じの要素がかなり出ていたから、今回は「積極的な見守り隊」になって、もし本人から相談されたら、適切な判断をしてもらうことの必要性も伝えてもいいかもしれないな、と考えたりしている。



温かいお気持ち、ありがとうございます。 そんな優しい貴方の1日はきっと素敵なものになるでしょう。