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【披露宴の余興】

ホテルでは披露宴が開かれていた。新郎は、あるプロスポーツ団体の選手である。

新郎側の来賓客のテーブルはその関係者で埋め尽くされている。

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さて、新婦が1回目のお色直しから帰って来ると、新郎新婦それぞれの側からの友人達のスピーチや余興が始まった。

なん組かのスピーチや余興が終ると、会場が暗転し始め、司会者の、次の余興を紹介するナレーションが流れてくる。

「はい、皆様、なぜか会場が暗くなってまいりましたが、次の余興は新郎の後輩選手8名による〈ムカデ踊り〉でございます。どうぞ皆様、お開き口の方にご注目下さいませ❗️」

司会者がそう言い終るや、直ぐに会場は真っ暗になり、賑やかな音楽が会場に流れ始める。そして1本のスポットライトだけがお開き口を照らした。

2人のドアマンの一礼後、観音開きのドアが左右にサ~~ッ!と開くと、場内にどよめきが起こった。

暗闇の中のスポットライトに照らし出されたのは、電車ゴッコのように1列に連なった素っ裸の男達であった。そしてその列は、丸でムカデのようになって会場内に入ってきたのである。

先頭の男以外は、それぞれが片手で前の男の肩を掴んでいる格好だ。

股間をどうしているのかと言えば、ぶら下がっている〈棒と玉〉は股から尻側に持っていって隠し、〈棒〉の代わりに片手で空のビール瓶を股間にあてがっているという、みっともないを通り越した姿なのであった。

ところが、前から見ると陰毛は丸見えだし、後ろから見ると尻の割れ目の下には〈棒と玉〉が潰れたようにハミ出ているのである。

そんな格好の〈ムカデ〉がリズムに乗って会場内を練り歩き、最後には新婦の友人達が座っている「梅のテーブル」の周囲をグルグルと回り始めたのであった。

新婦の友人達は目のやり場に困ってしまって全員が下を向いたまま耐えている。

盛り上がっているのは新郎側の来賓客と選手達だ。

実はこの〈ムカデ踊り〉、その業界の伝統的な余興なのだ。選手の結婚式披露宴では後輩達が絶対にやらされるという、謂わば〈掟〉のようなものだったのだ。

ところが「梅のテーブル」への集中攻撃がマズかったのか、はたまた新婦側の趣味に合わなかったのか、今回だけはド顰蹙を買ったのである。

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過日、反省したこのスポーツ団体は「今後一切、披露宴での〈ムカデ踊り〉は禁止する。違反者には向こう6ヶ月間の選手資格停止の処分を課す」という〈お触れ〉を出したのである。

こうして、その団体から1つの伝統行事が消えていった。


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