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【ビオスの丘】

飛行機から降り立つと、1月だというのに実に暖かい。

僕と家内と息子の3人は、那覇空港ビルの動く歩道を降りて、まだまだ続く長い通路を歩いていた。天井に吊るされた〈めんそ~れ〉の看板を上目遣いに見ながら、ツアー会社が指定した集合場所を目指す。

なにせ広い空港ロビーだ。見付けるまでに少々の時間を要してしまった。

なんとか間に合ったのだが、同じバスに乗る予定のツアー客が乗った飛行機の到着を待ったので、結局、バスは予定時間を少し遅れて出発することになった。

初めての沖縄なので、年甲斐もなくハシャギたい気持ちでイッパイになる。家内も20歳になった息子もきっとそうに違いない。

宮国さんという、如何にも沖縄らしい名前の男性ツアー添乗員が、最初に向かう観光地を案内してくれる。

「はいっ! 今、バスが向かっております所は、うるま市にある〈ビオスの丘〉という、亜熱帯の森でございます。大きな池もありまして、遊覧船に乗って森を観察することも出来ます。那覇空港から1時間くらいの道のりで、本島の丁度真ん中辺りに位置しています。到着まで、まずは沖縄の街並みをご覧になって楽しんで頂ければと思います」

流れる車窓から見える沖縄の建物は、写真で見たようなものではなくて、四角い2階建てのコンクリート造りの家ばかりだ。なんでも〈台風〉にメッポウ強い造りらしい。

周りを石垣で囲まれた平屋造りの建物で、玄関の正面真ん中に邪魔するように塀があって、屋根瓦にはシーサーがいるというあの沖縄の建物は、昔の建物なんだということを、〈テーマパーク琉球村〉に行って、保存された古い沖縄民家を見てから初めて知った。

無知にも程があるというものだ。〈ウチナンチュ〉に叱られそうである。

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景色を楽しんでいるうちに、バスはいつの間にか〈ビオスの丘〉の駐車場に到着した。

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「Bios」というのは、ギリシャ語で「すべての生命体」という意味だそうである。

生命体というだけあって、中に入ると、そこはもう〈亜熱帯の森〉だった。幾本も通っている通路の左右には、イチイチ大きな葉っぱの植物が覆い繁っていて強い生命力を感じさせているのだ。

いやはや南国である。

そして、本州では考えられないことに、1月だというのに〈蘭〉が満開なのである。おそらくは、白いのが〈胡蝶蘭〉で、オレンジ色のが〈カトレア〉だと思う。

亜熱帯植物に囲まれた通路を抜けて広場に出ると、向こうの方から〈牛車〉がやって来た。ただ、その牛は本州で見るような和牛ではなくて、長くて立派な角が左右に伸びている〈水牛〉なのだ。

おっとりとした〈水牛〉は、係の牛夫に連れられて、大人や子供たちをイッパイ乗せた観覧車を引いている。

「おい、宮国さんが言ってた遊覧船に乗ってみるかぁ?」

そう言うと、家内は大乗り気だ。

「うん!乗る~っ❗️早く乗らないと集合時間になっちゃうよ」

3人は〈大瀧池(うふたちぐむい)〉の遊覧船乗り場へと急いだ。

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1人¥800―で乗れる湖水観賞船は、10畳敷くらいの大きさがあって、左右にベンチシートが備え付けてある。4角っぽい形をしていて、屋根には緑色のテントが張ってあり船体も緑色だ。自然の緑を害さない為だろう。

ある程度お客さんが乗り込むのを待って、遊覧船はいよいよ岸を離れて池の中ほどへと進んでいく。

船尾に乗ったイケメンの船頭さんが、モーターで静かに動く船を操縦しながらガイド役をしてくれる。ウンチクは中々奥深いものがあって、それがここの売りの1つらしい。

「この池の水深は最大で5メートル程はありますので、落ちたら危険です。皆様、落ちないように御注意ねがいま~す❗️」

花や植物、水辺の岸で休んでいる水牛や野鳥の解説を楽しんでいるいると、時折レンタルカヤックに乗った観光客とスレ違って手を振り合うのが、またほのぼのとした気持ちにさせるのだった。

謂わば、湖水ジャングルクルーズといった案配だ。

終盤、クルーズ船は岸辺に設置されたミニステージで〈沖縄舞踊〉を踊っている〈お姫様〉の側を通って元の乗船場に帰ってきた。

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葉っぱも水牛も花も踊り娘も、み~んな沖縄情緒タップリであった。

沖縄に来て、まだ〈ビオスの丘〉しか訪れていないのに、もうスッカリ沖縄の虜になってしまった。

そして心はもう次の目的地、恩納村にある〈琉球村〉に飛んでいるのであった。


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