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【赤いバスタオル】

当時の子供たちは、夏休みになると友達とよく川に泳ぎに行っていた。今のように危険だからダメ、などというような決まりもなかったので、夕方まで泳いだり魚を追いかけたりしたものである。

「お~い。そろそろ帰ろうやぁ」

遊び疲れた誰かが声をあげる。

「そうじゃのぉ、寒うなってきたしのぉ」

「そうじゃ!今日は金曜日じゃったのぉ、マグマ大使があるんじゃった」

「そうじゃそうじゃ、忘れとったわ、早う帰ろう!」

みんな岸に上がってタオルで身体を拭きはじめたのだが、ひとりだけが持ってきた袋の中身をゴソゴソと物色している。

「どしたん?早う服を着にゃぁ、マグマ大使が終わってしまうでぇ」

「わし、タオル持ってくるの忘れたわぁ」

「なんじゃ~、お前はトロいのぉ」

するとタオルを忘れてきた友達がすぐ近くの民家の物干し場を指差して言った。

「おっ!あそこに赤いバスタオルが干してあるでぇ」

「しょうがないわ、ちょっと借りぃ借りぃ」

「ええんかのぉ~、まぁ、また干しときゃぁええか!借りちゃろ借りちゃろ」

そういって、タオルを拝借してきた友達が顔を拭きながら言った。

「ん~?このタオル、紐が付いとるでぇ」

それは、おばあさんが穿くオコシだった。

(おこし・・裾よけ、腰巻なとも呼ばれる女性の和服着物の下着)



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