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【水銀体温計】

ある施設の事務所で、暫くのあいだ留守番役をしていた時の話である。

この施設は寮としても機能しており、若者や学生たちが寝食を共にしている。

ある朝、1人の男の子が事務所を訪れた。

「あのぉ~すいません。今日、チョッと熱があるんです。こんなご時世なんで、仕事は休んで〈PCR検査〉に行ってこようと思ってるんですが、その前に体温を測っておきたいんで、体温計を貸して頂けませんか?」

「あぁそうなんだぁ、そりゃ大変だねぇ・・で、体温計なんだけどさぁ、デジタル体温計は、いま別の人に貸し出してるんだよ。アナログの水銀体温計になるんだけどそれでいいかなぁ❓️」

「はい」

「・・・えぇ~と・・・あったあった❗️ これなんだけどさぁ」

透明な円柱状のケースに入った水銀体温計を差し出しすと、受け取った彼がこう言った。

「あのぉ~・・・これ、どうやって使うんですか❓️」

〈えぇっ❓️使い方を知らないのか❓️〉

僕はチョッと驚いてしまった。

「これはな、こうやってさ、細くなった方を下に向けて振るんだよ。ケースに入れたまま紐を・・こう持ってグルグル回して下げる方法もあるんだけどさ。そしたら水銀が下に下がるだろ❓️ そうしておいて脇に挟むんだ」

「はぁ・・脇に」

「そして3分待つんだぞ」

「3分もですか❗️」

水銀体温計なんて見たこともなかったのだろう。世代の差を強く感じてしまった瞬間なのであった。


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