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【ミヤマクワガタ】

少年達にとって〈カブトムシ〉や〈クワガタムシ〉は宝物だった。

夏休みになると友達とよく獲りに行った。

〈カブトムシ〉は、山ではなくて製材所に獲りに行く。製材所の隅の木屑の中にイッパイいるのだ。

砂山のようになった木屑を手で掘っていくと、大きな幼虫やサナギがゴロゴロと出てくる。

友達が勢いよく掘っている。

《ブチュッ!》

嫌な感触があった。勢いよく掘り過ぎて指先が大きな幼虫(白い芋虫)を潰してしまったのだ。

「わっ❗️幼虫つぶしてしもうたぁ」

友達が声をあげる。

「おい!ゆっくり掘れよ~」

「わぁ~~気持ち悪りぃ~」

友達はそう言いながら恐る恐る幼虫を引っ張ると、体液が流れ出てしまって、黒い頭の下が、脱ぎ捨てた白い靴下のようになったのが出てきた。

潰れた幼虫の姿も悲惨だったが、サナギが潰れたのも負けず劣らず気持ちが悪かった。

そうして何匹かの幼虫やサナギを犠牲にしながら掘り進んでいくと、それらに混じって、地表に出る前の成虫が出てくるのだ。それを目当てに掘り進む。

・・・・・・・

〈クワガタムシ〉は山に獲りに行った。朝早く起きて、前の日に木の幹に砂糖水を塗っておいたところを探すのだが、この方法で獲れる確率はあまり高くはなかった。

早朝に獲るもうひとつの方法があった。山にある公園の水銀灯の下を探すのだ。これはかなりの確率で大物が獲れたのだが〈カブトムシ〉もよく飛んで来ていた。

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虫たちにはランクがあった。まずは雌雄の問題だが、種類には関係なく人気があるのが、やはり《オス》だった。大きな角やアゴを持たない《メス》は喜ばれなかったのだ。

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〈カブトムシ〉はよく獲れたので皆んな見飽きていて人気はイマイチだ。やはり〈クワガタムシ〉に人気が集まった。

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〈ノコギリクワガタ〉これは定番の人気で、よく獲れた。輝く焦げ茶色の体が美しかった。そして動きが素早かったので、なんだかスマートでカッコいい。

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〈コクワガタ〉は小さくて弱かったので人気が無い。

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〈ヒラタクワガタ〉はあまり沢山は獲れなかったので結構珍しがられた割には今一つの人気といったところか。

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さて、なんといっても1番人気があったのが〈ミヤマクワガタ〉だ。土色に近い色をしていて、体には薄っすらと金色の産毛のようなものが生えている。オスの頭部の左右は皿の形をしていて物凄くカッコよかった。そんなに獲れないので、希少価値もあって、人気に拍車を掛けた。

「僕のノコギリ3匹と〇〇君のミヤマ・・・交換してくれん?」

〈ミヤマクワガタ〉を持っている友達にそう頼んでも決して交換なんかしてくれはしない。

そして〈ミヤマクワガタ〉以上に憧れていたのが〈オオクワガタ〉なのだが、少年時代には、遂に巡り会うことが出来なかった幻のクワガタだった。

〈オオクワガタ〉は現在では養殖されていて、高価だけれどもそんなに珍しくはないのかもしれない。しかし、外来種が幅を効かせる今日では、天然の〈日本オオクワガタ〉なんて、当時よりも希少価値があるに違いない。

ただ、あんなに大好きだった〈クワガタムシ達〉なのに、今では〈ゴキブリ〉と同じように感じてしまうのだから、人間、変われば変わるものである。

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